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コロナ新感染症の緊急雇用対策

日本生産性本部参与 武蔵大学客員教授 北浦 正行

 

新型コロナウイルス感染症はまだ終息の展望がなかなか開けていない。そうした中で心配されるのは、雇用面での安定確保であり、収入の維持という問題だ。政府は何かというと、雇用問題は雇調金の活用とテレワークで万全だという発言を繰り返している。代表的な例としてならよいが、これですべて解決のようにいうのは違和感がある。

雇調金はそもそも休業給付への補助であり、その対象にならないで人員整理に至るという企業も少なくない。特に非正規雇用労働は、雇い止めなどにより離職せざるを得ない者が増えるだろうし、全国的な実態の情報提供も急いでもらいたいものだ。テレワークもそうだ。雇調金と同様に、少し誇大宣伝が強いような気がする。何よりもテレワークは、単なる「自宅待機」ではなく、自宅での「勤務」であることを忘れてはならない。

 

そもそも緊急雇用対策には、これらに限らずいろいろなメニューがある。それらの全体像も一緒に発表するべきだが(かつては緊急経済対策が出ると緊急雇用対策も一緒に出ていた)、いまは受けのよい政策だけが突出させて打ち上げられている感がある。特に雇調金は事業主拠出の雇用保険2事業の助成金で、財源が雇用保険特別会計であり国庫負担がないうえ積立金が溜まっているから都合がよいのだろう。だから、政府だけでなく与党内からも、世論の動向に追随したように制度拡充の大盤振る舞いが続いている。

雇調金でいえば、支給要件・手続きの緩和や事後申請の特例、雇用保険被保険者への対象者の拡大、支給率の引き上げや全額給付の特例など給付額の拡充の目白押しだが、今後も休業給付の最高日額の倍増も用意されている。一番の問題は手続きの迅速化だが、猫の眼のように変わる支給内容に追いつかず、ハローワークも混乱状態だ。

 

注目されているのは、休業給付を個人が直接受けられるようにした「雇用調整給付金」と呼ばれる制度創設である。休業になったが休業給付を払ってもらえない場合に、労働者の申請により休業給付分の助成金を支給するという。これだと労働者の申し出により直接支給するものなので、迅速な対応が可能になるとされている。

実は、現行制度においても、激甚災害法の適用等がある場合の特例として同様の制度がある。みなし失業手当と呼ばれる特例であり、休業を余儀なくされたか休業手当の支払いがない人や、一時的に離職を余儀なくされたが事業再開後に再雇用が予定されているような場合にも、基本手当分を支給する。これまでの大規模な自然災害時には活用されてきた。

 

ただ、事業所の休業状況の確認など事業主からの対応を求める手続きは最低限あるはずだし、そもそも労基法上は義務化されている休業手当を払えない理由となる「不可抗力」の解釈も曖昧だ。この制度構想の発表時に、厚生労働大臣が慌てて休業手当を支払う努力は前提として考えるべきものと付け足したのも、制度濫用への懸念だ。自然災害のように事業所の施設・設備等の破損など物的被害が生じた場合との違いや、そもそも緊急事態宣言対象地域の解除や休業要請の状況(特措法上の強い権限が与えられる場合との区別の必要性)など疑問に思う点は多い。緊急事態宣言と同時に打ち出してほしかったと思うが、緊急措置としての制度創設であり、一般会計の負担導入も含めて有効な緊急対策となることを期待したい。