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労働あ・ら・かると

新入社員は点・線・面で育てよう

社会保険労務士 川越 雄一

 今年も新入社員を迎えた会社は多いと思います。もちろん、新卒と中途採用では多少の差はあるにしても、自社で戦力化するには、それなりの時間をかけて育てることが不可欠です。その場合に注意すべきは、あせらずに一つひとつの成長を確認しながら行うということです。それが、成長の段階に応じて「点」から「線」へ、そして「面」へ広げていくという考え方です。

1.採用するも育てきれず
苦労しながら何とか採用はできたものの、ありもしない早期の即戦力を追いかけるばかりに、育てきれず辞められてしまう会社は少なくありません。結果として、年がら年中採用活動を強いられるのです。
●採用できてホッと
求人難のなか、ようやく採用できて、入社日までこぎつければ採用担当者もホッとするものです。特に中途採用の場合は経験者であることも多く、即戦力として仕事をしてもらえそうな期待もありますからなおさらです。新卒の場合も、キチンとしたスーツ姿を見れば何となく早期に戦力となってくれそうな錯覚を起こしてしまいます。
●育成なしに即戦力を求めても
大きな期待を背負って入社してきた新入社員ですが、実際のところ、そう簡単に戦力にはなりません。やはりそれなりの基礎固めとして時間が必要であり、これを怠れば早々に潰してしまいます。例えば、基礎工事なしに建物を造るようなもので、これでは砂上の楼閣、建物はアッという間に崩壊してしまうのと同じです。
●採用活動の繰り返し
人材育成に失敗する会社は失敗するようにやっていますし、成功する会社は成功するようにやっています。失敗する会社は採用したら、じっくり育てるという視点がありません。また、早々に戦力化したいため、鉄を熱いうちに打ちすぎてしまいます。そして、早々に潰してしまい、また募集・採用と年がら年中採用活動の繰り返しです。

2.人材育成は「急がば回れ」
一日も早く一人前になってほしい新入社員ですが、やはり人材育成にはそれなりの時間がかかります。ですからここは「急がば回れ」、じっくりと手順を踏むことが結局は近道なのです。
●急ぐから遅れる
「急がば回れ」ということわざがあります。急を要するときこそ、危険で何があるかわからない近道を選ぶよりは、遠いけれど確実にたどり着くことのできる回り道を選ぶほうが賢明だということのたとえです。例えば車の運転でも、広い本道ではなく細い裏道をセコセコ走ったとしても到着時間に大差はないといわれていますが、人材の育成も同じようなことです。
●一見回り道のようでも
回り道を選ぶというのは「のんびりと行く」という意味ではありません。時間はかかっても丁寧で確実な方法のほうが、かえって無駄を省き、余裕を持って効率良く行うことができるということです。人材育成においても、3年で一人前になるのであれば、一見回り道のようでもじっくり3年間の育成手順を踏むことが戦力化への近道なのです。
●その時期に応じた育成を行う
例えば植物もそうですが、いきなり大きな地面に種を蒔くのではなく、まずは小さな容器で発芽させ、苗床でしっかりと根を張らせたうえで、畑なり花壇に移植します。人材育成もそれぞれ、その時期に鍛えるところが変わってきます。つまり、仕事の幅や量、レベルに応じて「点」から「線」、そして「面」というように育成していくのです。

3.3つの成長段階を踏んでじっくり育てる
多くの場合は3年くらいで一人前ですが、やはり1年、1年の積み重ねです。1年目に「点」として教えた仕事が、1年経験することにより「線」となり、さらに1年経験することで「面」となって一人前になるのです。
●1年目は仕事を「点」で教える
1年目はとにかく右も左も分かりません。ですから、会社から教えられる仕事を覚えるのが精一杯です。何しろ、会社で使われている書類や道具がどこにあるのかも分からないわけですから、まさに手探りの状態です。一つの仕事を「点」とするなら、それを一つひとつこなしていく段階です。
●2年目は仕事が「線」になる
2年目になると、「あれっ、これ去年(以前)もやったな」と1年目にやったことを思い出します。そうなりますと「点」で覚えていた仕事がつながり「線」となります。つまり、仕事の前後が分かるので多少ゆとりも出てきますし、次にやるべきことをいくらか予測できるようになります。
●3年目は仕事が「面」になる
2年目に「線」でつながった仕事が、なぜこの仕事が必要で、会社全体ではどのような位置づけなのかが分かります。つまり、前後の関係に左右も加わり仕事を「面」で理解できるようになります。こうなりますと、仕事の応用や工夫ができて仕事の幅が広がりますので面白みも出てきます。これでようやく一人前なのです。

昨年入社した従業員から、「これ、去年やりましたが、こういうことだったんですね」などと言われれば、成長を感じますし嬉しいものです。やはり、人材育成は段階を踏んでじっくりと行うことが必要なのです。