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新しい就職ナビの台頭

就職アナリスト 夏目孝吉

 

■2020年の採用活動では、学生の就活スタイルの変化や就職ナビ離れが焦点になりそうだ。現在、新卒学生を対象とする就職ナビは、リクナビ、マイナビのように登録学生数80万人、掲載社数3万社に及ぶ巨大総合就職サイトを始め職種、地域、外資、院生向け、体育会系など就職サイトは十数社に及ぶ。これらの就職サイトは、就活学生にとっては必須の情報源であり、ほとんどの学生が登録するものとなっている。しかし、こうした就職サイトを利用する学生の動きに変化が見えてきた。これまでとは違った就職情報や求人システムを掲げる就職サイトが続々と新卒市場に参入してきたからだ。

 

▼変化の兆しを示したのがHRプロの20卒就活生を対象とした「学生が最も活用したサイト」という調査である(▼図表参照)。これは同社が昨年6月に楽天みん就と共同で行ったアンケート調査で、1750人の学生の回答を得たものである。

この調査には5つの注目点がある。

1.学生の支持がもっと多い就職サイトは、リクナビとマイナビの2社で、他社に大きく差をつけているが、利用率は2社とも後退している。

2.文系学生ではマイナビ、理系ではリクナビが、それぞれ首位にいる。

3.ベスト8入りした楽天みん就、ONE CAREER、OfferBoxなどは、従来の企業紹介型の就職サイトでなく新しい採用システムの就職サイトとして学生の支持を集めている。

4.文系の総合型就職サイトでは、大手2社以外は、大きく後退、「キャリタス就活」がようやく6位に入っただけ。

5.文系では、3年前、総合型就職サイトが上位8社中5社を占めていたが、今回は、3社(マイナビ、リクナビ、キャリタス就活)しか入れなかった。

 

▼ 新しく登場した就職サイトは、どこが新しいのか。これまで新卒の就職サイトの仕組みは、かつての就職ガイドブックの延長線上にあるもので、企業から提供された情報をそのまま紹介、学生は、誰でも(大学名を問わず)その情報をもとに興味を持った企業があれば、自分から応募するものだった。そのため企業は、情報公開後は、ひたすら学生からの応募を待つというものだった。

しかし、数年前から台頭してきたのは、企業の採用情報を学生目線で紹介するという就職情報会社の登場である。楽天みん就、就活会議などがそれである。これらの就職サイトは、個々の企業の採用選考の実際や仕事内容、社風などについて内定した学生や当該企業の社員、元社員などに企業を語らせる。就活をする学生の知りたいことをクチコミ情報として生の声で評価、紹介するのである。いくら有名企業でも採用選考が不透明とか、労働条件が悪い、職場に活気ない、などと報告されれば、学生は敬遠する。逆に無名の会社でもクチコミで評価されれば応募者が多くなる。こうしたクチコミサイトをさらに差別化したのが「ワンランク上のキャリアを目指す就職活動サイト」といわれるONE CAREERである。総合商社やメガバンク、外資系企業など人気難関企業の情報に限定した就職サイトである。こうしたサイトは、当然のことながら上位大学の学生が集中登録することになり、クチコミはオープンなものから会員限定のクローズドなものになることで人気を集めている。

これに対して学生が自分のプロフィールや自己PRを公開し、求人を待つのがOfferBoxやIrootsという就職サイト。これは逆求人システムあるいはダイレクトリクルーティングというもの。自分の能力や経験を学生が登録することから上位大学の学生や理工系学生が多く参加するのが特徴だ。現在では、自分を売り込みたい自信のある学生が多く参加し、特定能力に優れた学生を採用したい企業が利用するものとなっている。このほか、図表にはないが、希望勤務地や希望職種、賃金などを入力して検索すると、インターネット上にある求人メディアや企業のホームページから希望に沿った求人企業を表示する求人検索エンジンの会社も学生の関心を集めている。

 

▼このように学生の就活は、これまでのように就職ナビに掲載された会社の情報だけで応募するだけでなく、クチコミ情報を重視したり自分からネット上に自己PRしたり、自分の希望に合う企業を検索するというポジティブな就活が盛んになってきた。それでも当面は、学生たちが一気に就職ナビ離れをするともいえない。これがネット時代の特徴だが、最近の就活学生は、とにかく情報は多く集め、それからじっくりと情報を分析して行動する。そのため就活開始時には、とりあえずの情報源として大手2社のナビサイトに会員登録をしておきながら随時、クチコミサイトや逆求人サイトの活用をするのが基本スタイルとなっている。だから、リクナビ問題があっても学生は、リクナビ離れをすることはない。しかし、今後、徐々に一括採用の見直し、通年採用の拡大が進めば、新卒中心の総合型就職ナビは急速に後退し、上位大学の就活に熱心な学生は、クチコミサイトやダイレクトリクルーティングあるいは検索型の利用率を高め、企業も就職ナビ中心の採用活動を見直すことになるだろう。

 

▼図表「年間を通じて最も活用した就職サイト」(調査実施:2019年6月)

順位 文系 % 理系 %
1 マイナビ 38(46) リクナビ 38(37)
2 リクナビ 27(33) マイナビ 29(41)
3 One career 14(-) 楽天みん就 13(16)
4 楽天みん就 11(14) One career 10(-)
5 外資就活ドットコム 3(-) 就活会議 5(-)
6 就活会議 2(-) 外資就活ドットコム 2(-)
7 キャリタス就活 1(2) Offer box 1(1)
8 Offer box 1(1) Iroots 1(-)

※カッコ( )の内の数字は、2019年卒学生の割合。(-)は、昨年10位以下のもの。

[資料出所]HR総研(ProFuture株式会社))「2020年卒学生 就職活動動向調査(6月)」

https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=236