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労働あ・ら・かると

求人広告と通信販売のTV宣伝

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 このところテレビをつけっぱなしにして眠ってしまうことが多く、深夜に目が覚めると、テレビ通信販売の宣伝番組が放映されていて、ついつい見入ってしまうことがあります。
 実にみごとに購買意欲をそそられるセリフ、テロップがあり、「ただいまから30分間はオペレーターを増員してお待ちしております。携帯からもOKです。」などと言われると、ついつい枕元のスマートフォンに手を出しそうになってしまう視聴者の方もいらっしゃるのだろうと思ってしまいます。
 筆者は仕事がら脳裏にコールセンターのありさまが浮かんでしまい、「オペレーター増員は人材派遣でまかなっているのだろうか?」「生放送であるのなら、出演者は深夜割増賃金が支給されているのだろうか?」「どの人が放送局の正社員で、どの人が売主の社員で登場しているのだろうか?」「商品の配送人員はブラックな環境で働いているのではないだろうか?」などと、購買心理とは関係のない想像(妄想?)についつい浸ったりしてしまいます。
 
 従来から虚偽の広告をしたり、虚偽の労働条件提示をして、労働者募集を行った者又はこれらに従事した者については、職業安定法第65条によって6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑が定められていたのですが、一昨年の職業安定法改正の中で、「募集情報提供事業」が改めて第4条に明確に定義され、また虚偽の条件を提示して公共職業安定所や職業紹介事業者に対して求人申込みを行った場合についても同様の罰則が明記されたわけですが、実際の場面で「虚偽」であったかどうか、あるいは「誇大」であったかどうかは、判定しづらいのではないでしょうか。
 テレビの通販を視ていると、「これは個人の印象です。」と医学的効能を謳ったものではないエクスキューズのテロップが流れたりして、景品表示法に抵触しない工夫を垣間見ることができます。
 
 今回の職業安定法改正と共に改訂された指針には、「職業紹介事業に関する宣伝広告の実施に当たっては、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)の趣旨に鑑みて、不当に求人者又は求職者を誘引し、合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示をしてはならないこと。」(第5 8 適正な宣伝広告に関する事項(二))という項目が新設されました。改めて景表法の第1条を読むと、その目的としては「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」とあるわけですから、その対象は商品広告だけではなく、職業紹介事業という「役務提供」ビジネスも含まれるということになると思います。
 
 そういえば、かつて10年ほど前に、人材紹介会社に対して「虚偽若しくは誇大広告を信じて人材を採用したところ損害を被った」と主張する訴訟が提起された事例があり(その訴えは棄却されましたが)、その判決文の中で裁判所は商品広告の性質について「そもそも商品広告は、それを見る者の関心を引きつけ、購買意欲をあおるための扇動的な表現や、当該商品等のセールスポイントをことさらに強調するような表現が用いられがちであるし、それを見る者においても、商品広告がかかる性質を有することを十分認識しているのが通常であるといえる。」と述べていたことも想起されます。その裁判を傍聴していて、証人として出廷した原告の社長さんも「私はそんな広告を鵜呑みにしてはいません。」と発言していたのを思い出します。
 
 求人広告と商品広告を同一に語っていいのかどうかは、「労働は、商品ではない。」としたフィラデルフィア宣言が脳裏をかすめると、別途論議が必要な気もしますが、人材紹介会社がそのビジネスについて、自社ホームページなどで説明することは必要なことです。その内容が「宣伝」とみられる場合もあるのですから、記述に求人者・求職者がその判断を誤ってしまうような誇大な内容や虚偽があってはならないのは、当然のことだと思います。
 そして、購入商品に瑕疵があった場合は、返品・代金返還請求ということが可能なのですが、職業紹介というサービス(役務提供)の場合は、そのような対処は不可能ですし、場合によっては人生の重要な転換点にかかわることなのですから、求人広告や職業紹介事業の広告については、単に「見せかけをよくする」ことに目を奪われるのではなく、実直な姿勢・作成の仕方が不可欠だと考えます。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)