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オワハラの季節がやってきた

就職アナリスト 夏目孝吉

 学生の就活が終盤になる4月から5月になると「オワハラ」という言葉が盛んに聞かれるようになる。採用関係者以外にはわからない用語かもしれない。企業の採用活動において内定を出すから学生に就活を終わりにしろという「就活終われハラスメント」の略語である。この言葉が就活学生の間で使われるようになったのは新卒の求人ブームが続き、採用計画未達の企業が続出するようになった数年前からである。オワハラは、学生にとって不愉快で腹立たしい企業の態度といえるが、企業にとってもオワハラという対応は、批判を覚悟の抵抗である。

 オワハラとは、どのようなものか、時期によって内容が違うので3段階に分けて紹介しよう。最も多いのが最終選考段階でのオワハラ。企業が面接を重ねていよいよ内定を出す寸前である。学生の報告によれば、こんな迫り方だ。「いま内定を出すから直ちに他社の内定、面接を辞退してほしい。ここにある電話でその企業にあなたから断りを入れてほしい。そうすればここで内定を出す」。あるいは、最終面接の後に内定誓約書を渡され、「いま就活をやめると約束してこの書類に署名してほしい、そうすれば晴れて内定となるよ」と迫られたという。「条件型」である。
 内定を出した後の内定中のオワハラもある。まだ他社が採用活動をしているときは、他社への応募を禁止するだけでなく、ライバル企業や人気企業の選考日には、連日のように役員との懇親会や見学会、研修への参加を内定者に義務付ける。物理的に他社に応募させなくするのである。「拘束型」である。時期に関係ない企業本位のオワハラもある。自社の内定が絶対で、いま内定を出すからすぐに就活を止めることを約束させ、すでに他社の内定を持っていれば直ちに内定を辞退させる。「もう就活は一切、やめてほしい。多くの応募者の中から時間をかけてようやくあなたを選んだのだから裏切らないでほしい。君がウチの内定を辞退したら、今後は君の大学から学生を採用しないよ」。これは脅迫に近い「絶対型」といえよう。
 オワハラは、急成長企業やベンチャーに多い。なぜかというと、こうした企業は、若い優秀な人材が成長のカギとなるだけに経営トップを先頭に採用には熱心で早期から全社的に取り組んでいるのが特徴。そのため通年採用を導入している企業が多く、優秀な人材とみれば指針などのルールを無視して大学3年生の夏のインターンシップから採用活動をスタート、順次、内定を出している。しかも早期に内定をもらえる学生ほど優秀なので、4月以降に内定を出す大手人気企業にも応募、そちらにも内定する学生が少なくない。そうなれば当然、重複内定となるので企業は学生に再び決断を迫る。拘束型オワハラである。そんな光景が、今年も5月中旬から6月に見られるだろう。
 オワハラについては、文部科学省が問題視し、大学に対して実態調査(「2018年度就職・採用活動に関する調査(大学等)」)をしている。この調査によれば、「学生の意思に反するようなハラスメント的な行為」について学生から相談を受けた大学は、約4割もあった。そして、学生の相談内容は、「内々定の段階で、内定承諾書を求められた」(提出しない場合は辞退とみなす)が最も多く約8割、「内々定を出す代わりに他社への就職活動をやめるように強要された」が約6割、「自由応募であるのに大学の推薦状の提出を求められた」が約4割、「内々定後、懇親会が頻繁に開催され、必ず出席するように求められた」が約2割を占めていた。オワハラの実態の一部が見える調査だ。
 オワハラとは、本来、新卒採用では想定されていなかった現象だ。学生は就活をして内定を得れば、それで内定先に満足して入社まで待機しているものだった。それが、最近では、内定者を囲い込んで他企業に就職させないために行われるものとなり学生が就職することに同意しなければハラスメント(いじめ?)となった。それが内定辞退を避けるための確認のはずだが、過激なオワハラとなることも少なくない。そのオワハラは、学生にとっては脅迫行為として受け取られこともある。これが、大学に報告されたり、ネットで拡散されたりすれば、当該企業は、ブラック企業として学生の間に噂として広がっていく。企業にとってオワハラは、最後の空しい抵抗だが、やってはいけない行動なのである。
 しかし、このオワハラは、大手企業や人気企業が指針を形式的に遵守して内定を遅く出す現状では、なくなりそうにない。急成長企業やベンチャーは、オワハラといわれようが5月になれば、どうしても学生の本心を聞かなくてはならない。この時期に内定を辞退されると、改めて採用できる見込みはほとんどない。どうしても学生の本心を知りたい、というのである。これが新卒一括採用の実態だ。これは、来年以降に増えるとみられる通年採用となっても変わりそうにない。通年採用になれば、採用活動開始時期をはじめ選考や内定時期を定めていないので急成長企業やベンチャーだけでなく中堅企業も、いつから採用活動をはじめて、いつ頃内定を出すのか、不透明となる。そうなれば、企業は、いつ内定者を奪われるか不安になりオワハラに走る企業も出てきそうなのだ。