インフォメーション

労働あ・ら・かると

退職後のことはキチンと説明しよう

社会保険労務士 川越雄一

 退職後の手続きは退職者本人が行うべきものです。しかし、そのようなことを知らずに不利益を受けると、「会社が何も説明してくれなかった」と、トラブルになりかねません。
ですから、大切なことは口頭でキチンと説明するとともに書面にして渡しておくことがお勧めです。

1.「そんなことは聞いていない!」
 A社は従業員30人ほどのソフトウェア開発会社です。そこに、先月退職したBさんが「そんなことは聞いていない!」と怒鳴り込んで来たのです。Bさんが怒鳴り込んだ理由は2つあったのですが、会社事務担当者の不親切な対応に納得できなかったようです。
 1つは、退職後も社会保険の健康保険に加入したかったBさんが、全国健康保険協会に「健康保険の任意継続被保険者」の手続きをした際、すでに手続き期限の退職後20日を過ぎていたため加入できなかったのです。Bさんはかなりの収入があったので、保険料が「国民健康保険」より相当安かった「健康保険の任意継続被保険者」になれなかったのは痛手です。
 そしてもう1つは、「任意継続被保険者」に加入できないので、「国民健康保険」に加入しようと市役所に行ったのですが、退職月からの保険料を請求されたのです。市役所が言うには、退職日の翌日が「国民健康保険」の加入日となり、加入月は1日しかないが1カ月分の保険料が必要とのことでした。
 Bさんは、当初月末付けで退職を申し出したのですが、事務担当者から「月末の1日前の退職なら1カ月分の社会保険料を納めなくて良い」と説明を受けていました。それだったらと、退職月は有給休暇処理で出勤していなかったこともあり、言われるままに月末の1日前で退職したのです。もちろん、事務担当者からは社会保険料が節約できるようなことしか説明されていなかったのです。

2.ちょっとしたことが大きなトラブルになる
 分かっている人にとっては何でもないことが、そうでもない人にとっては、分からないことが分からないわけで、少しでも不利益を受けるとトラブルになりやすいものです。
●知識力・理解力の違い
 会社の事務担当者が心得ておくべきは、自分たちと一般の従業員の知識力・理解力の違いです。事例のケースでは、手続き期限と社会保険料徴収のルールですが、事務担当者であれば基本のキホンです。ですから、改めて説明する必要もないと思いがちですが、一般従業員というのは、そのような知識がなく、サラッと説明したくらいでは理解できないことも多いのです。また、退職日というのは月末あたりが多く、事務担当者もバタバタしていて言い違いもあるでしょうし、退職者の聞き違いもあります。
●「せこい」ことはトラブルになりやすい
 社会保険料は月末の1日前までに退職した場合に、その月分が徴収されないルールです。しかし、会社で徴収されなかった月の社会保険料が消滅するわけではなく、退職後に加入するいずれかの保険制度において負担しなくてはなりません。確かに会社としては、その月分の会社負担がないので助かると言えば助かります。しかし、そのようなことを目的に退職日を意図的に月末の1日前に仕向けるのは少々「せこい」気がします。退職者は、退職時に「保険料が引かれていない」と喜びが大きい分、その後に2カ月分請求されると、カチンときてトラブルになりやすいのです。

3.大切なことはキチンと説明し書面で渡す
 口頭だけだと、言い違いや聞き違いも起こりやすいので、大切なことは、それに加えて書面にして渡します。
●具体的にキチンと説明する
 「任意継続被保険者」の加入手続きは、退職日の翌日から20日以内であり、その日までに手続きを行う必要があります。ですから退職時にこれをキチンと伝えます。社会保険料徴収のルールも理解していないまま、退職後に2カ月分請求されたりすると何となく騙されたような感じがします。ですから、退職日により保険料がどのようになるかを具体的に説明して納得させておくことが必要です。「分かっているだろう」ではなく「分かっていないかもしれない」という心構えで臨みたいものです。
●大切なことは書面でも渡す
 退職者に伝えておきたいことは数多くあります。これらを口頭だけで済ませようとすれば、漏れや言い違い聞き違いを生じやすいので、書面でも渡すようにします。例えば次のような項目です。
・保険料……退職月分を徴収されていない場合は、その分を退職後に加入する保険制度で徴収されることがあること。
・健康保険……特に「任意継続被保険者」については手続き先や加入手続き期限を過ぎると加入できないこと。
・年金……すぐに就職しない場合は、国民年金へ加入し保険料を納めないと、未納期間が発生し障害・遺族年金に不都合が生じること。
・雇用保険……失業給付の受給期間は退職後1年間であり、病気でしばらく働けない場合は、受給期間延長手続きをしておく必要があること。
・退職金……中小企業退職金共済の場合は、自分で請求手続きを行う必要があること。

 退職者にしてみれば退職後の手続きなど不安なものです。
だからこそ、親身になって説明することがトラブル防止の“かく
し味”なのです。