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3月6日をサブロク記念日とするならば

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 昨年暮れ、3月6日が、日本記念日協会によって「36(サブロク)の日」として記念日登録されたそうです。
 読者の皆様は、「労働基準法第32条に8時間労働が定められているが、実質第36条によって、青天井といってよい時間外労働を合法的に可能としてきた。」という側面があることはご存知かと思います。
 今回の記念日登録は、そのような発想よりはもう少し前向きに、すべての職場でより良い働き方を実現するために、長時間労働の是正に向けた機運をはかり、多くの人に「働き方」や「働くこと」について考えてもらうのが目的ということですので、揚げ足を取るつもりはありませんが、思いをふくらませると、「そうであれば3月2日を『8時間労働の日(労働基準法第32条)』と併せて説明できたらなぁ」とも思います。
 もっとも「8時間労働」ということになると、どうしてもアメリカでの8時間労働を要求しての統一ストライキを行った5月1日をメーデーと記念したこと起源とするという話の方が、歴史も長く広がりも大きいようなので、”3月2日8時間労働記念日説”はかき消されてしまいそうです。
 メーデーは80以上の国で祝日とされていると聞きますが、日本では祝日ではないため最近は前後の土日など参加者が参加しやすい日程が組まれているようですね。

 そのように思い巡らしていくと、例えば下記のような「働くこと」に関する記念日候補が思い浮かびます。そして意外に雇用主の方々などが認識していないのが矢印以下ではないでしょうか。
○1月5日=労働条件明示の日/労働基準法第15条
→意外に知られていないのが「労働契約締結の際明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は即時に
 労働契約を解除することができ、その場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰
 郷する場合は、使用者は必要な旅費を負担しなければならない。」ということではないのでしょうか。4月から新たな
 在留資格が設けられるなど、海外人材についての施策が大きく変わろうとしていますが、海外から夢を抱いて日本に来
 た人材が『来る前に聞いていた話と実際が違う!』となった時、離職すると在留資格が維持できなくなる事態も予想で
 きるわけですが、帰国を余儀なくされた人材の帰国旅費の負担にこの条項が実効性をもって適用できるかどうかの検証
 や論議が不十分のような気がします。
○2月2日=退職証明の日/労働基準法第22条
→意外に知られていないのが第3項「前二項の証明書(退職証明書)には、労働者の請求しない事項を記入してはならな
 い。」と第4項「使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信
 条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはな
 らない。」ということではないでしょうか。いまだに職業紹介事業者に対し「紹介候補者の前職の退職理由を前勤務先
 に聞いて調査してほしい。」と要求する求人者が存在するのも事実です。
○2月7日=出来高払制の保証給の日/労働基準法第27条
→「雇用類似の働き方」についての論議も高まっている昨今ですが、求人広告の中にはいまだ「高額の100%歩合給」を
 標榜したものを見ることがあります。「請負制で使用する労働者」についても「労働時間に応じ一定額の賃金の保障を
 しなければならない。」というこの定めがどこかに行ってしまうような「働き方」の推奨につながらないかどうか、論
 議を見すえる必要がありそうです。
○2月8日=最低賃金の日/労働基準法第28条・最低賃金法
→最近の労働施策では、この最低賃金を底上げすることで貧困対策や正規非正規間の格差の是正を図って「働き方改革」
 を実現しようとしているように見えます。今年の10月の最低賃金改定では時間単価1000円を超える最低賃金も登場す
 る(東京は1.53%upで100円を超える)と予想されます。しかし気を付けないと、急激な最低賃金上昇は、小さな店舗
 などでアルバイトを雇用しなくなり、同居の親族だけで店舗運営をしてこの適用を避けようとする事態を招きかねない
 との指摘も一部にあります。賃金アップが真に経済の好循環につながるような、複合的な施策が必要だと思います。
○3月8日=労働時間計算とみなし労働の日/労働基準法第38条、同38条の2、同38条の3、同38条の4
→兼業・副業推奨も「働き方改革」の中で進められそうですが、この労働時間通算の考え方が実際の現場でどのように運
 用できるのか、異なる事業場のどちらが通算後の割増賃金を負担するのかなど、詰めなければならない課題は多々あり
 そうです。IT技術の進歩によって「労働時間を算定し難い事業場外勤務」が実在しなくなってきている昨今、様々な
 裁判例も参照しながら「事業場外みなし労働」の運用も検討したほうが良さそうですし、その不適切な運用が話題とな
 った「裁量労働制」やこの4月から始まる「高度プロフェッショナル制」も、その実態をよく見て、労働者保護と経
 営・生産性の効率化を両立させていく運用が望まれます。
○3月9日=年次有給休暇の日
→昭和の時代から長い間、労働者が請求してはじめて取得する「年次有給休暇」が、「働き方改革」の中で、5日とはい
 え「雇用主が取得させる義務」と転じたことは昭和世代の筆者としては、目の回るような転換です。時間取得をはじ
 め、有効な「休み方改革」につながる時代ですね。
○8月9日=就業規則の日
→10人以上規模でもこれすら作成届出していない企業もあると聞きます。労働基準監督署の人員も限られているでしょ
 うから、社会保険労務士の方々などを活用しての作成普及策の実現実行を期待します。
○9月7日=労働基準監督官の日
→「ダンダリン」コミックも十年近く前の話になってしまいましたが、「かとく」の設置などが影響してか、労働基準監
 督官志望の人数が増えていると耳にします。「働き方改革」の中でその業務量も激増しているのではないかと推測され
 ますし「労働基準監督官の過労」につながらないよう、増員と合わせて、民間を活用した労働基準行政の効率化も期待
 されるところです。
○10月8日=賃金台帳の日
→多くの企業でコンピュータ化されていると思いますが、個別労使紛争の際などにはこれをきちんと作成していた雇用主
 がその正当性を主張する根拠となり得ます。107条の労働者名簿ともども労務管理の基本中の基本の書類と言えるで
 しょう。

 以上つらつらと思い浮かびます。これらを全部「働き方関連記念日」としなくとも、労務担当者や組合専従の方々の朝礼などで課題喚起をするようなカレンダーがあってもいいように思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)