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銀行業界に対する学生の評価は低すぎる

 就職アナリスト 夏目孝吉

■人気低落 
 20年卒の大学生の就活は3月1日に企業説明会が始まった。新卒求人ブームは、7年連続で今年も学生優位の売り手市場の採用活動となる見通しだ。
 そうした採用環境のなかで学生たちの就職傾向にも変化が現れてきた。人気業界、人気企業の変化である。なかでもここ数年、金融業界、とくに銀行の人気が後退しているのが話題だ。この傾向は、各就職情報会社が毎年、行っている学生モニター調査でも明らかでHR総研の2020年新卒学生の就職意識調査(18年10月調査)では、「メガバンク・信託銀行」を志望する学生は、10位と下位に甘んじ、ディスコの11月の志望業界調査では、前年1位だった銀行が大きく後退して8位に下がった。ごく最近、発表された文化放送キャリアパートナーズの「学生モニター調査」(19年2月調査)でも「都市銀行・地銀・信金」を第一志望にする学生は、昨年の6位から10位に後退した。
 こうした銀行の人気後退は、同じ金融業界に分類される証券、保険にも共通し、それぞれ人気を後退させている。かつて銀行業界は、就職希望の学生にとってはあこがれの就職先であり、人気業界だった。就職人気企業ランキングでも常に上位を占めていた。だが、ここ数年は、総合商社や、航空会社あるいは食品メーカーにトップの座を奪われ、トップ10に銀行は1社か2社しか顔を出せなくなった。なぜ、人気がなくなったのか、学生側の就職観や就活がどのように変わったのかを見てみよう。

■人気後退の原因は3つ
 これまで銀行は、学生にどのように見られて人気を得ていたのだろうか。銀行業界に共通するのは、社会的評価の高さ、給料の高さ、仕事内容、経営の安定性といった点だろう。だが、その人気が低下してきたのは、銀行業界に大きな変化が起こって、これらの魅力が急速に失われつつあるのを学生たちが感じているからだろう。
 その変化の第一は、銀行業界における競争激化と急速に進む統廃合だ。これまで安定した成長と協調で発展してきた業界だが、10年前からは、グローバル化と規制緩和そしてゼロ金利の時代となり、メガバンクから中小金融機関に至るまでが激しく生き残りをかけて闘うようになった。そして今日、マスコミをにぎわすのは銀行業界のシステムの統廃合、人員削減などのリストラ、銀行員の転職急増、異業種からの金融業への新規参入という報道である。とても安定した業界ではなくなり、将来性も不安な業界になったのである。 
 第二の変化は、銀行の業務が巨大化するほど、仕事の魅力がますます学生に見えなくなったことである。これは、学生の企業研究の不足もあるが、銀行のPR不足もある。多くの銀行がグローバルな事業展開をイメージで訴え、ワークライフバランスを重点にしたPRをしている。そのため学生たちは、銀行業務といえば個人や法人を相手とした営業や外国為替程度のイメージしかない。総合職といっても、ハードで多彩な資金調達や金融テクノロジー、資産運用、M&A、不動産など仕事の大きさや、やりがいをもっと広い視野で語るべきだろう。
 第三の変化は、学生にとっては、採用数の大幅減で就職が厳しくなったことと採用選考フローの長期化があげられる。学生にとってはショックで、応募を躊躇するのも理解できよう。具体的には、採用数の大幅減は、18卒と19卒の採用数の違いを見ると明白で、みずほフィナンシャルグループは、1365人から700人へと半減、三井住友銀行は803人から650人、三菱UFJ銀行は、1024人から950人へと軒並み減らしている。しかも、この採用減の対象は、多くは一般職や地域限定職だった。そのため女子学生の銀行人気が急激に低下したのである。
 また銀行の選考については、そのプロセスについての不満も多く、実力のある学生は、早期に採否を決定する他企業に志望先を変更して就職する傾向も出てきた。銀行の場合、学校推薦の学生以外は、早期からのインターンシップや説明会に参加した後にようやく面接となり、5回から8回ぐらいの面接を経て内定する。この長期間にわたる選考を先輩学生から聞き、不安になって志望を変更してしまう学生も少なくないという。

■銀行の将来が不安
 上記にあげた人気後退の3つの変化のほかに銀行の将来に対する不安もある。新聞や雑誌では、「銀行員がどんどん辞めている」とか「銀行員の不安」などと特集され、銀行員の転職が急増していることや本業の収益先細り、相次ぐ人員と店舗の削減計画、地銀の合併などが連日のように報じられている。こうした銀行の将来について学生はどう思っているのだろうか。
 そんな疑問にストレートに答えているのが就職みらい研究所の「就職白書2019」。ここでは「将来性が高いと思う業種」を学生に聞いているが、そのランキングは、製造(機械以外)がトップで、以下、機械器具製造、情報通信、医療・福祉、運輸の順、ようやく6位に金融・保険が顔を出し、それ以下はサービス、建設・工事、インフラ、卸・小売りなど。もっと残念な調査結果もある。前述したHR総研の調査では「就職先として敬遠したい業界」として「メガバンク・信託銀行」が外食を抑えてトップだった。銀行の社会的ステータスや賃金、労働条件などは申し分ないはずだが、どうしてだろうか。
 これからの銀行業界の大競争、リストラを読んだのだろうか。たしかにこれからの銀行は、激動の時代に入る。金融業界は、流通、卸・小売り、情報通信など異業種からの参入が相次ぎ、これまでの金融システムとは全く違うフィンテック、AIの技術や仮想通貨の登場で、銀行はなくなるのではないかとの声さえある。だが、銀行業界には、そうした課題を乗り越える力や人材は豊富なはずだ。学生たちは、インターンシップや企業研究にあたっては、そこをよく見て就活をしてほしいものだ。現在の銀行業界に対する学生の評価は低すぎる。