インフォメーション

労働あ・ら・かると

人材ビジネス いろはかるた 2018

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 明けましておめでとうございます。
 毎年同じことを申し上げ続けて恐縮ですが、記憶を風化させないことが大事だと思います。
被災後7度目の正月に、徐々に復興が進んでいるとはいえ、未だ故郷に帰還できない大震災・原発事故被災者の方々、福島にて被曝の危険の中黙々と廃炉作業等に従事している方々、日本各地での地震・大火といった天災に遭われた方々、戦乱や困窮の中にある世界中の人びとに思いを寄せながら、新年のご挨拶を申し上げます。
 2013年から始めた、毎年恒例の「人材ビジネスいろはかるた」ですが、6年目の今年も「人材ビジネスいろはかるた2018」として続け、一巡したいと思います。

ゆ 油断大敵
 気が緩み油断をしていると、災いに遭遇してしまったり失敗することにつながるので、油断することが一番大きな敵であるという戒め。
 「このぐらい規則を守らなくても大丈夫だろう」という慢心による油断が、金属メーカーや素材メーカー、自動車メーカーでの検査データ改ざんを生み、大きな社会問題になったここ数年です。特に素材というものは目に見えにくいところで利用され、新幹線やロケット、飛行機等にも使われており、日本の生産物への世界からの信頼感を揺るがして、「日本の安全神話はただの神話だったのか。」とまで言われています。
 全ての経営者は、製造業に限らずサービス業においても、自ら社会に提供している製品、サービスについて総点検するとともに、その組織風土についても収益優先で閉鎖的でないか、消費者軽視でないかという検証が求められています。
Security is the greatest enemy.

め 目は心の鏡/目は口ほどにものを言う
 目はその人の心を映し出す鏡のようなものという孟子の語。だから、目を見ればその人の心の様子が読み取れると言う。目じりの上がり下がり、涙、喜怒哀楽の感情を最も顕著に表すのが目だということから、言葉がなくとも目つきから相手の心がわかるということでもあります。
 採用選考の正道とも言える面談の場において、候補者の視線の落ち着きや、質問者に視線を集中して話すかなど、眼球と視線をじっくり観察することは基本です。心が清く正しい人は、瞳も澄んでいます。
The eye is the window of the heart.
The eyes are as eloquent as the tongue.

み 実るほど頭を垂れる稲穂かな
 稲が実を熟せば熟すほど、穂が垂れ下がる様を、人間も学問や徳が深まるにつれ謙虚になり、小人物ほど尊大に振る舞うものだということ。
 社会人1年生の若い頃ですが、企業の経営に当たっている信頼できる大先輩の方々が、何とも素晴らしい気配りをして腰も頭も低いことに感激したことがあります。
 逆に最近は急成長した若い経営者の方々で、自分ファーストのオーラをメラメラと出して相手の立場に立てないように感じる方もいれば、腰低く先輩たちから何かを吸収しようとする礼儀正しい意欲エネルギーを感じる方もいます。職場のパワーハラスメント紛争の場に立ち会うと、この言葉を当事者が知っていれば、老人短気を飲み込んで、もう少しスムーズな職場の人間関係が作れて業務効率も上がるのにともよく思います。
 熟練世代になればなるほど、頭を下げ辛抱する自戒を忘れないようにしたいものです。
The more noble, the more humble.

し 朱に交われば赤くなる
 もともとは、「近墨必緇、近朱必赤(墨に近づけば必ず緇(くろ)く、朱に近づけば必ず赤し)」だとの説も聞くが、人は付き合う人の良し悪しによって善悪どちらにも感化されるものだ、という意味の言い回しです。
 若者雇用促進法による職場情報の選択開示項目の中に、「メンター制度の有無」という項目があります。確かにビジネスパースンとなる最初の段階の上司や先輩によって、やる気をなくしてしまう事例も垣間見たことがあります。これは墨に近づいてブラックになってしまった例なのでしょう。
 逆に新入社員諸君には、周囲の人びとについて自分が染まるべき色を持っている人かどうかを見極める目を持ってほしいとも思います。
He who touches pitch shall be defiled.

え 縁の下の力持ち
 人に知られないで、陰で苦労すること。陰で努力すること。または、その人。
 ビジネス社会においての「評価」ポイントというと、どうしても営業成績、利益拡大への貢献に眼が行きがちです。医学でも対症療法や手術と対比して「予防医学」の影が薄いのですが、最近はその重要性が高まってきていると言われるようになりました。企業経営の場面においても、危機に陥らないためのリスクマネジメントの発想を持ち、コンプライアンス点検を行う「予防法務」「コンプライアンス室」が注視されつつあります。
 製品の安全・安心を維持する品質管理にも、このような人材は必要ですし、求人広告のような無形サービスの提供にあたっても、その掲載内容をチェックしている業界団体に参画している情報提供事業者のほうがより安心ですので、消費者・利用者の側も、その製品やサービスの「縁の下の力持ちの機能」を見抜く力を持つ必要があるように思います。
Person who does a thankless task. / Man of modest worth.

ひ 百聞は一見に如かず
 100回聞くより、1回見る方が良く判る。何度繰り返し聞いても、一度実際に見ることに及ばないという意味。論より証拠。
 IT技術の発達により、居ながらにして世界中の情報やデータに触れ、収集できる時代ですが、そのようになればなるほど、実施踏査フィールドワークの大切さが増すようにも思います。
 少なくとも人間の五感の内、視覚と聴覚による情報は距離の隔たりを相当克服したと思えますし、ロボット義手の開発者に聞くと、触覚についてもかなりデジタル化して遠方に伝えられる時代が近いのではないかと期待を持たされます。でも出張や旅行で世界各国の空港を出たとたんの街の臭い、各地の名物料理の味覚をデジタルに伝えられるようになるにはまだまだ年月が必要そうですし、嗅覚で呼び覚まされる過去の記憶というのも解明には時間がかかりそうです。
Seeing is believing. / A picture is worth a thousand words.

も 餅は餅屋
 餅は餅屋のついたものが一番美味いという意味で、その道のことは、やはり専門の者に任せるのが良策であるという意。
昭和の時代は、年の瀬が近くなると近所が寄り集まって餅をついたものですが、平成の時代はすっかりコンビニエンスストアやスーパーで購入するようになり、一年中食するようになりました。餅は餅屋から買った方が美味しいし簡便ということなのでしょうが、風情を惜しむ声もないわけではないように思います。
 しかし「専門馬鹿」という言い方もあるわけで、進歩や画期的な開発は、餅をつく側だけでなく、餅を食べる側の発想や、全く異なるように見える分野のプロが関わったほうが、良いものが生まれるという考え方もあります。
 リベラルアーツの必要性について、この「労働あ・ら・かると」に寄稿してから2年以上経ちますが、目の前の仕事にのみ目を奪われて、その先の製品の消費者、サービスの利用者に想いを馳せられない人材ばかりの社会になって欲しくないですね。
One should go to specialists for the best results.

せ 背に腹はかえられぬ
 大切なことのためには、他のことを顧(かえり)みる余裕などないということ。差し迫った大きな苦痛を避けるためには、小さな苦痛や多少の犠牲は止むを得ないという意。
 リーマンショックの後、このセリフを吐いて希望退職を募った企業も随分見てきましたが、昨今は利益が上がっても労働者に分配せず、内部留保ばかり膨らんでいるようにも見えます。「あつものに懲りてあえものを吹く」ではありませんが、「ヒト・モノ・カネ・情報」が重要な経営資源ということは今更言われなくても、経営者の方々はみなご存知でしょうから、「ヒトへの投資」をおろそかにすると人材が定着せず、企業の存続を危うくすることを想い起こしてほしいものです。
 視野の狭いコストカットは、材料費の低減による品質低下や消費者不安を招くこと、安全衛生費用の削減による製品事故を招くことは歴史が証明しています。
Needs must when the devil drives.

す 好きこそ物の上手なれ
 何事によらず、好きならばそれを熱心にやるから、上達するという意。
 30年以上「雇用の始まり」に関わる仕事に従事してきましたが、本当に人間というものは興味深い存在だと思います。
 労働環境とウマが合わないとやる気を失くして生産性が落ちますが、良き先輩や仲間、顧客に出会えると一生懸命になりどんどん仕事をこなすようにもなります。そうすれば仕事に熟練し、それを評価する労働環境があれば、更にますます脂がのるという好循環になって上昇します。しかし何よりその熟練を支えるものは、「自分の説明を納得してくれるお客様と出会うことが好き。」「自分の作った橋や建物を悦に入って眺めるのが好き。」という「なんだかんだ言ってその仕事が好き。」ということではないでしょうか。
Who likes not his business, his business likes not him.

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)