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新社会人のみなさんへ 10年前20年前新人だった先輩をよく観察しましょう

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 今月社会人となられたみなさん、そろそろ新人研修や新入社員歓迎会も一段落してきている頃でしょう。
例年4月は、通勤ラッシュに慣れていない新社会人と思われる方々の不器用な電車の乗り降りや振舞いをほほえましく見させてもらっています。また5月に入ると徐々に慣れてきたと思われるその姿や表情に頼もしさを感じたりするものです。

 世間から皆さんは「キャラクター捕獲ゲーム型」と見られているそうです。うなずく方も不本意な方もいらっしゃるでしょうが、昨夏大流行した外出型スマホゲームに皆さんは例えられ、「就職先の選択肢は数多くあり、比較的容易に内定出来たようだが、一方で、レアな優良企業を捕まえるのはやはり難しく、ネット・SNSを駆使して情報収集し、スマホを片手に東奔西走した結果、現在の企業に入社した。」と、世間からは見られているという客観性は、その指摘が的を射ているか外れているかは一旦置いて、持っていてほしいと思うわけです。
 このネーミングのコメントには、「必死になりすぎてうっかり危険地帯(ブラック企業)に入らぬように注意が必要。はじめは熱中して取り組むが、飽きやすい傾向も(早期離職)。モチベーションを維持するためにも新しいイベントを準備して、飽きさせぬような注意が必要(やりがい、目標の提供)。」などとも書かれており、「そのように見られている」自覚の下、社会やビジネス、技能などを精一杯吸収していってほしいと思います。

 もっとも、今皆さんの目の前にいる先輩社員や上司たちにも、新人だった時代は当然あったわけで、ちなみに目の前にいる昨年入社した1年先輩は、「ドローン型」、5年前(平成24年入社)は「奇跡の一本松型」、10年前は「デイトレーダー型」、20年前「形態安定シャツ型」などと名付けられていたそうです。
 それぞれの特徴がある先輩たちが、社会人になった後の環境変化にどのように対処し適応してきたのでしょうか。じっと観察するもよし、飲食の場面で質問するのもよしです。それぞれの世代の「苦労話」から、皆さんがこれから遭遇するであろう「環境変化」にどう対処すべきなのか、そのヒントを是非獲得してほしいと思います。

 そう申し上げるのも、6年前のアメリカのデューク大学のデイヴィッドソン教授による「今年(2011年)中学生になった子供たちの65%は、将来、今現存していない職業に就くことになるだろう。」という衝撃的な発言が、脳裏を離れないからです。この「子供たち」は今年高校を卒業する年代になっているわけですし、既にこの6年間でも消滅したり衰退した職種が出始めているからです。

 ビジネス環境や道具も急速に変化しています。先輩たちの就職活動の時の必須道具も、世代によって、テレホンカード→携帯電話→スマートフォンとなっているわけですし、募集情報の収集も、紙の求人情報誌→PCによるWeb情報収集→ノートPC→タブレットと、あっという間に変わり、当然それぞれの道具を使いこなすために必要なスキルもどんどん変化しています。皆さんの職場の先輩たちで、「こういうビジネスパースンになれたらいいな。」と思われる人が、社会人になってから、環境変化やビジネスツール変化にどのように適応してきたかを聞き、そのノウハウを吸収していただきたいのです。

 今年新社会人となったみなさんの就職活動は、「若者雇用促進法」が適用され、企業の雇用情報公開事項には「メンター制度(=知識や経験の豊かな先輩社員が『メンター』〈mentor〉として、後輩社員のキャリア形成上の課題や悩みについてサポートする制度)の有無」も挙げられています。
 就職先にこのような制度が無くても、面倒見のよい先輩がいることもあるでしょうし、宮本武蔵の「我以外皆我師」という言葉もあります。面倒を見てくれなくても、じっと先輩を観察することで自分の適応力をこれから磨く糧を得ることができます。

 「65%は、将来、今現存していない職業に就く」ということの裏には「今在る職業で無くなるものがある」という現実があります。スイカやパスモといった電子乗車カードが登場して20年経過していないわけですが、すっかり姿を見なくなったのが駅の「改札係」という職種でしょうし、ワンマン運転が普及し始めている鉄道では、「車掌」という職種も減少していることは容易に想像できます。東京の新橋からお台場方面を走っている「ゆりかもめ」の運転席には人の姿は見えません。既に「無人運転」が実用化されているからです。
 もう少しさかのぼれば、「和文タイピスト」「踏切警手」という職業も、姿を消したり減少しています。前回職業分類表に新設された「電話応接事務員」などは、昔の「電話交換手」の技能と共通点があるとはいえ、コールセンターオペレーター、テレフォンアポインターという仕事の登場によって出現した職種と言ってもいいでしょう。

 これから40~50年働くであろう皆さんにとって、今就いた職種が無くなる可能性は相当にあるという緊張感を忘れず、しかし新たに生まれる職種に自分が移行する可能性の視野を忘れずに、新たなビジネスツールを使いこなせるよう努力する気持ちを維持して、これから過ごしていただきたいと思います。
 当面先輩から習うのは、今目の前にある仕事の処理のしかた(マニュアル)でしょうが、その先輩たちが努力してきた「適応力・生存力のコツ」も是非観察して自分のものにしていただきたいと思うのです。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)