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労働あ・ら・かると

外国人と職業選択の自由

東京パブリック法律事務所 外国人・国際部門

弁護士 尾家康介

「こんな会社、辞めてやる」という権利、すなわち退職や転職の自由は、労使関係における弱者たる労働者にとって、切り札ともいうべき重要な権利である。日本国憲法も、職業選択の自由という形でこの権利を保障している(22条1項)。

 もちろん、実際には、仕事を辞めるという選択は、労働者にとって容易に決断できるものではなく、辞める権利があるとはいっても、様々な事情で仕方なくその職場にとどまるというのはよくあることである。

 ただ、これが日本における外国人労働者のこととなると、話は深刻になってくる。

 日本で働く外国人は、在留資格の点から大雑把にいえば、三つのカテゴリーに分けることができる。一つめは、就労自体が目的となっている在留資格を有する人たちである。例えば、大学教授には「教授」、インド料理のコックには「技能」、エンジニアには「技術・人文知識・国際業務」という在留資格がそれぞれ用意されている。二つめは、日本と人的なつながりがあるという属性によって在留資格を持って滞在し、かつ、働いている人たち、例えば、日本人と結婚して「日本人の配偶者等」の在留資格を有する人たちである。そして三つめは、在留資格を持たずに働いている人たちである。なお、特別永住者や在日米軍関係者等はこれらのカテゴリーに当てはまらない例である。

 このうち、一つめのカテゴリーに属する人たちについて、日本は今のところ、原則として専門的な知見を要する職種のためにしか在留資格を認めない(外国人はそうした専門的な職にしか就けない)との方針であり、しかも在留資格は非常に細かく分かれていて、その在留資格が認める範囲の仕事しかしてはいけないし(同じ会社内の配置転換でさえ認められない場合がある)、仕事をしないで滞在することも認められない、という仕組みになっている。

 したがって、このカテゴリーの在留資格で働いている外国人労働者は、在留資格の変更を伴わない限りは、在留資格で認められる範囲の仕事にしか転職することができないし(資格外での就労は犯罪となりうる)、とりあえず辞めるという判断もしにくい。
 
さらに、「技能実習」などの在留資格においては、原則として労働者の自由な転職も、このカテゴリー内の他の在留資格への変更も想定されておらず、そもそも転職が非常に困難な仕組みになっている。

 二つめと三つめのカテゴリー、すなわち、属性によって在留資格を得て働いている人たちや、在留資格を持たない外国人労働者の中にも、辞める自由がないことに苦しむ人たちがいる。

 これらの人たちは、在留資格によって職種を限定されるというわけではないが、例えば、ブローカーの支援で定住者の資格を得て日本に来た結果、ブローカーから借り入れた形になっている入国の手数料を支払うために指定された仕事を続けなければならない場合や、在留資格がないために逃げ出すこともできないということを逆手にとって、職場にとどまり違法に働くことを強いられるという事例も存在する。

 このように、外国人労働者は、在留資格上の問題がない日本人とは全く違った次元で、退職の自由、転職の自由が制限されているのである。

 退職や転職ができず、職場にとどまるほかないとなれば、労働者は使用者に対して、例えば残業代請求や職場環境の改善を求めるなどの他の正当な権利行使をすることもあきらめがちになる。こうした立場の弱さを利用して労働者を搾取することは、人身売買とも評価されうるのであり、現に、日本では外国人に対する労働搾取型の人身売買が行われているとの批判があるところである。

 労働者は商品ではなく人である以上、人としての権利に配慮する必要がある。外国人労働者を受け入れておきながら、「いやなら本国に帰ればいい」というスタンスでいると、国際労働市場において日本の評価は下がり、有能な人材は日本を目指さなくなる。外国人労働者の権利を保障する制度設計が必要であると同時に、使用者においても外国人労働者の立場に対する配慮が求められるゆえんである。

以上