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わが国の企業経営と人材の関係をどのように考え対応するか その3 若・中堅層の人材育成の課題と対応について

                                          MMC総研代表 小柳勝二郎

 前回は、人材確保の問題を取り上げましたが、今回は若・中堅層の人材育成の問題について実態と課題・対応について見ることにします。
 多くの人の中から素材の良い人材を選び、確保することも大変なことですが、努力して確保した人材をどのように育成・活用をするかは本人の成長や企業の業績にかかわってきますのでさらに重要になります。育成と活用は別ですが、実態は常に絡まった形で進行すると理解した方が良いでしょう。

 企業は、まず新入社員に対して早期に戦力になれるよう、今後企業人として知っていなければならない諸規則や法令、礼儀作法、実務知識等について時間をかけて教育することから始まります。新入社員教育は極めて重要で、企業が時間をかけてどこまで教えるかは企業の考え方で異なりますが、社員の意欲が高いうちに時間をかけて真剣に教えることが、その後の会社や社会生活に良い影響を与えますので大切です。
 総じて言えば教育期間は1カ月程度ですが、大企業で顧客に常に接する業種、資産やお金、健康が絡んだ業種、専門的能力を必要とする業種等は3ヶ月かそれ以上のところもあります。現場実習を入れると1年位かかる企業もあります。

 企業は研修を通して各新入社員の性格、能力等を把握することになります。
企業の人材育成の方法は各社によっても異なりますが、一般的には、仕事を通じて教育していく方法(OJT)と通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練で、社内外で実施される座学研修(OFF-JT)などの方法があります。
 どちらにウエートを置くかは業種や企業によって異なりますが、製造業であれば、会社の概要や諸規則を聞いた後は現場研修で実際のモノづくりをしながら会社の製品等や仕事の仕方を一通り教わりますし、専門的知識を求められる会社では、会社の概要の説明後は主な部門から仕事の内容が時間をかけて教育されることになります。

 その後部門への配属が決まり、業務に就くことになります。どこに配属されるかは会社の都合や入社面接等の意見交換、入社後研修、学校の成績等を総合的に検討されて部門の配属が決まります。喜ぶ人、残念がる人などいろいろですが、会社に入ったばかりで、本人の気持や意欲でどうにもなる時期ですので、どこに配属されても、そこからが競争社会のスタートとなりますから、前向き思考で努力することが重要です。

 配属後はOJTが中心で、人間関係も大切にしつつワーク・ライフバランスを念頭に置いて積極的に仕事にチャレンジすることになります。会社は大人を相手にしたビジネスで細かいところまで直接指導をしません。基本的な点は教えますが、それ以外は自分で考え、工夫して早くひとり立ちすることが大切です。
 人材育成に対するスタンスは企業によって異なりますが、どちらかと言えば大企業や専門的能力が求められる企業は人材育成のために受講必須、受講は任意など、例えば階層別研修、職能別研修、コミュニケーション能力研修等、あるいは企業外研修への派遣等いろいろな研修を用意しています。
 それをどのように活用するかも大変重要ですが、それでは足りない部分がたくさんあります。それを埋めて納得できるような仕事の遂行や他者から評価されるためには自己啓発を続けることが大切です。その積み重ねは数年後には大きな財産として蓄積され、さらなる意欲を高めることにつながります。

 入社後7~8年になれば立派な中堅層になり、一人でいろいろなことができ、配置転換も1~2回経験する人も出てきます。組織における立場は、職能を高める内容や業務の質的向上、人の活用の仕方などが求められますので研修等もそれに資するような内容で組み立てられることになります。
 会社からは、仕事についての取り組み姿勢、能力、成果が問われる年代になりますので、できる人とできない人の格差が明確に意識されるようになります。配置転換の部署や担当すべき仕事のレベルも少し差が出てきますが、まだ先が長いので努力すれば同じレベルに復帰が可能になります。
 会社の状況や自分が何をすればよいかもわかる年代ですので、計画性をもって、企業研修や自己啓発で目標に向かって取り組むことが必要で、企業もそのことを期待しています。

 企業は若年・中堅層の人材育成にどのように対応しているかを見ると、若年層では、「人事評価との関連で定期的に面談」をする、「企業が費用を負担する社外教育」、「計画的・系統的なOJT」、「企業内で行う一律型のOFF-JT」、「指導係や教育係の配置」「事業所間の転勤」「同じ職種での人事異動」といろんなことが行われています。
 これらの点が入社後数年間の主な人材育成事項ということになります。若年者が早く会社業務になれることや業務面等でいろいろ困ったことに対する相談、業務内容の変化等への対応など若年者が孤独感や業務の行きづまり、人間関係の問題等で離職しないようにいろいろな制度が実施されています。

 中堅層についての取り組みとしては「考課における定期的面談」や「企業が費用を負担する社外教育」、「目標管理制度による動機づけ」、「転勤」、「人事異動」、「人材ビジョンや人材育成方針・計画の立案」等のまさに中堅層の仕事に応じた育成内容が多く、若年層の計画的・系統的なOJTといった育成は少なくなっています。
 人材育成上の課題としては、若年・中堅層とも「業務が多忙で、育成の時間的余裕がない」、「上長等の育成能力や指導意識が不足している」、「人材育成が計画的・体系的に行われていない」などがあがっていますが、特に中堅層ではその比率が高くなっています。その他に若年層の課題としては「離職等で人材育成投資が回収できない」、「人材育成に係る予算が不足している」、また、中堅層では「コスト負担の割には効果が感じられない」とか、「人材育成を受ける社員側の意欲が弱い」という意見もあります。

 このように人材の育成は若年層、中堅層で違いますし、管理職層とも異なりますし、グローバル人材も別の観点からの育成も必要になります。これらの育成の問題点については、若年層では「受ける側の意識が高まっていない」ことや「日常業務が忙しいこと」、「人材育成が計画的に行われていない」、「コスト負担の割に効果が感じられない」などの意見があります。
 若年層は厳しい就職戦線を経て就職できた安堵感もあるでしょうが、これからが悲喜こもごもの予想される厳しくて長い職業生活が始まるという考えに立って早く意識改革をすることが大切です。担当する仕事はできるだけ早くマスターし、企業の研修は大事ですので積極的に参加し、考えていることを発言し、議論を通して考え方や知識を高めていくことが大切です。意識改革を行い、そのような事に早く気付くかどうかは大変重要です。入社後2~3年は一生懸命に努力した仕事については多少の間違えや失敗は大目に見てもらいますが、勤務年数が経つにしたがって仕事の範囲が広く、責任も重くなりますので、いろんな仕事について失敗をしないよう十分目配りをして取り組むことが重要です。

 中堅層で多い意見としては「業務が多忙で育成の時間的余裕がない」、「上長等の育成能力や指導意識が不足している」などが大変多くなっています。最近、企業の中堅層は働き盛りで忙しく、上司と後輩の対応を考えますと能力開発をする時間がないという話はよく聴きます。これらの状態を放置し目先の業務のみに精を出しますと、将来を担う人材が育たず、企業の新たな発展・活力が低下する恐れが強まります。
 中堅層は仕事も1人前にまかせられ、自分の考え方や仕事の仕方も工夫・改善ができますので、業務の見直しをするとともに後輩の仕事についての指導も必要になります。
 企業は中堅層が業務多忙で目先の仕事を処理するのが精一杯で能力が高められないとか、後輩の指導をする時間が取れないほど忙しすぎるようでしたら、人員増や業務のIT投資等を行い、業務、人材育成に力を入れ、持続的に成長・発展するような環境整備をする必要があります。