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新入社員の意識と労働観について

                                          MMC総研 代表 小柳勝二郎

 今年も就活のルールのあり方が問題になっていましたが、この問題は、企業、学校、学生のそれぞれの思いの中でルールを決めても守られてこなかったという歴史があります。基本的には学業の妨げにならない日程で就活をすることを検討し、合意を得て広報、選考、採用内定等の諸活動を実施するわけですが、結局、ルールは守られず、後味の悪い反省の弁が各側から出るということを繰り返してきたように思います。お互いに守れないルールであれば止めるべきだということで一時やめた時期もありましたが、守られなくともスケジュールや対応のルールはあった方がいいという普通では理解しがたい言い分で復活し、毎年同じような論議をしているのが、就活の実態のような気がしていますし、多少の手直し程度では今後ともあまり変わらい状態が続くことになるだろうと思います。

 それは日本特有(韓国も日本と似ているようですが)の学卒の一括採用方式や雇用制度が背景にあります。日本の採用方式や雇用制度の功罪はよく議論されるところですが、経済・経営・人材のグローバル化や産業構造の変化等を考えた場合、現行の学卒の一括採用は、教育システムや雇用制度のあり方との関連も含めて見直す時期に来ているようにも思います。

 これらの点については別の機会に譲るとして、今回はそのような就活を経て入社し、将来を期待されている新入社員がどのような意識や考え方で働いているのかのアンケート結果をある調査機関発表しましたので、それらの結果も参考にしながらその特徴や問題点を見ていきたいと思います。

 新入社員は会社に入ったばかりで経営内容や経営システムをよく知らないのは当然です。下記に掲げる問題も時間の経過とともに理解し、良き対応されると思いますが、人生の約50%を過ごす職業生活ではいろんな出来事、課題が出てきます。広い視点に立って検討し、自分の判断力を高め、悔いを残さないようにしてほしいと思います。

 大事と思われる主な点についてみることにします。まず、「会社を選ぶ場合に何をどのような点を重視したか」といった質問に対していろんな意見が出されています。「自分の能力・個性が生かせる」が最も多く、次に「仕事が面白い」「技術が覚えられる」「会社の将来性」等となっています。これらの回答は会社の実情をよく知らない段階の考え方としては一般的に理解できるところですが、どのようなレベルを考えて「能力・個性を生かせる」とか「仕事が面白い」と回答しているのか気になるところです。就職に当たっては「会社の将来性」も重要なポイントです。デフレ期などではこの項目を回答する人が多かったのですが、最近、景気が良くなって経営不安が減少したこともたこともあってか、少し低下気味なところが気になります。経営のグローバル化は企業間競争が強まり、格差が大きくなることが予想されます。「会社の将来性」は、今後、一層重要な視点として考えておくことが大切です。

 仕事と生活については「仕事と生活の両立」と回答した人が圧倒的に多く、妥当な見方だと思います。日本では現在「働き過ぎの見直し」や「女性活用」の推進が求められ、「ワーク・ライフ・バランス(WLB)」が各企業の取り組み課題となっていますので、その考えに沿ってメリハリのある仕事と家庭生活の両立を図ることが必要となります。それを実現するためには政府、企業は働きやすい環境づくりを推進し、従業員は男女を問わず働く人の意識改革などが重要になります。

 働き方についての質問で少し気になった点を見てみましょう。質問は「人並み以上に働きたい」「人並みで十分」「どちらともいえない」の3項目ですが、「人並みで十分」が「人並み以上に働きたい」を上回っている点です。それはそれで各人の働き方の考えですので仕方がありませんが、会社側から見ると仕事の取り組み姿勢や組織の活性化の面からは気になる点です。それとの関係で別の新入社員の意識調査の中で最終的に目標とする「役職・地位」について聞いた回答があります。それによると30%強は「地位に関係がない」と答えていますが、目標とする役職は、部長クラスが約2割、役員が約2割、社長が1割強と部長以上が5割強と大学全入時代を考えれば、本音はそれなりの地位を考えている人がいるなという思いもあります。ただ気になる点は、部長以上になるためには、多くの企業では「人並みで十分」ではまず難しいといってよいでしょう。最近の処遇制度は能力や職務・役割・成果が求められていますので、所定内時間の中でメリハリのある仕事を通じて成果を出すことが求められています。今後はより一層効果的な働きをしつつ成果を上げていくことが大切になります。どの程度の役職に就くかは実力や運などが影響しますが、各人は自分なりの将来の目標を持ちつつ、まずはしっかり仕事をし、それを通して人間的にも成長する、その努力の積み重ねで結果として限られたポストに就くくらいの気持ちで日々精進することが良いように思います。

 雇用形態や処遇制度は経営者、労働者にとって大いに関心がある重要課題ですが、新入社員がどうのように考えているか見ることにしましょう。
 雇用形態は、長期デフレの厳しい雇用情勢を知ってか、このところ“終身雇用”を望む割合は高まる傾向にあり、最近では7割強を占めています。基本的には雇用は企業と労働者との合意で成り立っていますので、両方が良好の関係であれば安定雇用を継続することは双方にとって望ましいことで、長期継続雇用の実現はお互いにハッピーということになります。

 ただ長期間の職業人生ではいろんなことが起こります。経営環境や産業構造の変化、働く人の生き方等いろんなことで転職をせざるを得ないとか、本人の成長のために積極的に転職したいという人もいます。学卒者で苦労して就職した会社を3年以内で退職した人が3割に及ぶというデータもあります。社員が“終身雇用”を望んでも経営状況が厳しくなれば実現しない場合もありますし、能力低下や病気、介護等で退職し、改めて新たな職場を探さざるをいない場合もあります。今の学卒一括採用と終身雇用の関係は、入社年等の景気に影響されることや終身雇用制が強く、その維持のためにいろいろな制度が導入されているため中途採用で正社員に入社することは大変難しく、非正規労働者が多くなっているとか、経営や働く人の変化への対応を阻害している面も出ています。これからは、再就職がしやすい環境整備と処遇制度を導入することで人材の有効活用をしていくことが重要になります。雇用が多少流動化しても早急に雇用確保がしやすい雇用制度への見直しをしていく必要があります。

 新入社員の人事・賃金等の処遇制度についての考え方は少し驚きです。年功的人事・賃金制度を望む人が4割強います。能力の発揮で昇格や賃金に差がつくことを望む人が5割強というのが最近の実態調査のようです。
 一般的には、若年層から中年層は能力・成果反映型処遇に賛成、高年層は年功処遇に賛成の意見が多いというのは当たり前と思いますが、高年層は仕事の内容から見て成果重視が強まっています。希望と実態が一致しないことは多々あります。これから頑張ってよい仕事をするぞと思う新入社員の4割強が年功処遇を望んでいる点が気になります。
 処遇の現状を見ると新入社員が望むことと企業の処遇制度の動向とのギャップがあるのが実態です。年功的処遇制度の中にも各人の能力の発揮や成果で多少の差が出ますが、透明・公正・納得性が欠けているとの指摘が以前から強くあります。
 企業の処遇制度は、今まで経営環境や従業員の意識の変化を踏まえて幾度となく見直しが行われ、今日のような能力・成果反映型で透明・公正・納得重視の処遇制度を目指してきました。処遇制度はまだいろいろ問題も抱えていますが、経済がグローバル化し、人材の確保から人事・賃金等の処遇制度に至る多くの面で国内外の動向も踏まえて対応する時代になってきていることは多くの人は理解してきています。
 そのような観点から人事・賃金制度を見ますと、人事制度の多くは、発揮された能力や仕事(職務)、役割をベースにして導入されてきています。賃金制度は、その人事制度の下で各人がどの程度成果を上げたかを透明・公正に評価して、賃金が決まる仕組みになっています。賃金は、発揮能力、職務・役割成果給、という内容で支払われています。欧米諸国では職務・成果の賃金は当たり前で、我が国の企業でもこのような方向は強まることはあっても弱まることはないと思われます。自分の思いと世の中の働き方が異なることはよくありますし、会社の方針がすべてうまくいくとは限らないこともありますので、処遇制度の構築・見直しに当たっては、広い視点に立って多くの人が議論し、企業、働く人が納得のいく制度にしていくことが大切です。賃金処遇の大きな課題は均等・均衡問題の取り扱いです。企業は職務の明確さを通して多くの人が納得できる水準で対応することが強く望まれています。