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労働あ・ら・かると

一人親女性労働者への社会政策の現状

一人親女性労働に対して政府がこの問題と真摯に向き合っているかどうかについて、最近の制度遂行の動きから検証してみる。政府による一人親女性への就労支援策には、世帯の生活維持を目的に安定的な職業に従事する女性の就業を支援する意図がある。その前提としては職業訓練や専門資格の取得を目的とした個人の就業能力の向上を支援する就業の支援と、教育の充実など個人の教養や能力の向上など就業条件を有利にするための取り組みがある。これらの制度の根拠は、「母子および寡婦福祉法」であり、現在の施策は2002年成立、2003年4月施行の「母子および寡婦福祉法の一部を改正する法律」によっている。同改正法は、離婚による場合、離婚した相手側の養育費の履行確保がある。また母子寡婦福祉貸付金の充実、保育所の優先入所などを推進しているが、目玉は「自立支援教育訓練給付事業」と「高等技能訓練促進費等事業」の二つの就業支援事業である。

自立支援教育訓練給付事業とは、父子家庭も含む一人親家庭の親であって、現に児童(20歳に満たないもの)を扶養し、児童扶養手当を受給しているか同程度の家庭で雇用保険法の教育訓練給付の受給資格のないものに、教育受講費用の20%(上限10万円)を補助するものである。支給件数は2008年には1806件、就業件数は1096件(61%)だが、2012年は1234件、就職件数は880件(71%)と、効果が比較的良い割には、件数が伸びていない。その理由は、目指す職業の選択が雇用保険の教育訓練給付の範囲と同一で広範であること、受講中の所得保障制度がなく、専門学校等による資格・能力の取得者は限られること、さらにこれらの取得が十分な雇用の安定に寄与していないこと等が挙げられる。

高等技能訓練促進費等事業とは、対象者としての条件は前者とほぼ同じだが、仕事または育児と就業の両立が困難と認められ、養成機関において2年以上のカリキュラムを修業し、対象資格の取得が認められるものである。対象となる職業とは看護師、介護福祉士、保育士、理学療法士、作業療法士等となっている。その名の通り、高等技能の取得が目的であるから、市町村民税非課税世帯には上限2年の間に月額10万円が、課税世帯には月額7万500円が支給される。さらに入学支援の一時金として修了時に非課税世帯には5万円、課税世帯には2万5000円がそれぞれ支給される。支給件数は2008年には1544件、就職件数は1291件(84%)、2012年は支給件数が3821件、就職件数は3079件(80%)と件数、就職率ともに好調である。だが広報活動の不足の影響とみられるが、潜在需要に比べて申込み件数が少ない。

このように政府による一人親女性の就職支援は一定の効果を上げているように見えるが、最も大切なのは、雇用する側の意識に働きかけることである。上記に上げた社会政策には政府による一般企業主側の女性労働および一人親女性就業への無理解の解消に向けた努力が含まれていない。政府は2003年に女性が働く社会の推進を目指して「次世代育成支援対策推進法」を成立させた。この法律には企業側の努力規定も含まれている。育児に関する9つの認定項目をクリアーしていれば「次世代認定マーク(くるみんマーク)」を公告・商品に提示できる、というものである。確かにこれは女性労働への理解と受容には有効だが、一人親女性の就労までは包摂しているとは言えない。一般企業に対する一人親女性への就労援助のための具体策を、省庁の枠を超えて議論してもらいたい。

【日本大学 法学部 教授 矢野 聡】