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今月のテーマ(2014年01月 その2)日本の医療制度の現状と課題

わが国の財政上最大の課題である社会保障費の増加に歯止めをかけられるのは、医療体制をどのように合理化、効率化するかにかかっているといってもよい。現在日本にはおよそ18万の医療施設があり、そのうち休止または1年以上休業中のものを除けばおよそ17万施設が「活動中の医療施設」である。このうち、病院はおよそ8500施設で、病院数は毎年わずかながら減少している。

一方、診療所はおよそ10万、歯科診療所は7万施設ほどで、いずれも対前年度に比べ若干増加したり減少したりしている。医療法第39条に基づき、この医療施設の開設・所有を目的とする法人が医療法人である。

医療法人は営利目的の開設は認められず(第7条5項)、剰余金の配当も禁止されているほか、設立には都道府県知事の認可が必要であり、また都道府県知事への決算等の届出義務がある。現在全国でおよそ5万法人が存在する。医療法人には医療法人財団と医療法人社団がある。医療法人財団は、個人または法人が無償で寄付した財産に基づき設立された医療法人で、財産の提供者は運営には関与できるが持分たる権利はない。一方、医療法人社団は複数の出資者が出資して設立された医療法人で出資者は出資額に応じて持分を有する。

現在、日本の医療法人の98%が医療法人社団である。さらに医療法人には一定の収益事業が認められる特定医療法人がある。これは医療法(第42条)の規定に基づいて設立には都道府県知事による定款変更の認可が必要となり、法人税率は30%である。

日本の医療提供体制は、戦後、国民皆保険制度の下で全ての国民に平等に医療を受ける機会を保障するという観点から整備が進められてきた。また、国民が容易に医療機関を利用できる(フリーアクセス)の体制が整備された。この医療技術水準の相対的な高さと、いつでもどこでも、必要な医療がわずかの自己負担で行える日本の医療は、今や世界に誇りうるものであり、諸外国もこの導入に興味を寄せている。しかしその反面、国際的にみても必要病床数を上回り、人口当たり病床数が多いこと、平均在院日数が長いことや1床当たりの医療従事者数が少ないことなど、他の先進国に比べて課題も浮き上がっている。医療費の面から見ても、人口10万対病床数と1人当たり入院医療費の関係をみると、病床数の多い県は入院医療費が高く、逆に病床数の少ない県は入院医療費が低いという傾向がみられ、病床数と入院医療費にはかなり強い相関関係があるといえる。

原因の一つとして、入院については病床の機能分化が十分ではなく、急性期の患者と長期の療養が必要な患者が混在することが多くなっていることが挙げられる。外来についても、大病院と中小病院、診療所の機能分化が十分ではなく、大病院へ患者が集中し、長い待ち時間などの問題も指摘され、政府の当面の施策として医療法改正による病床区分の見直しなどを進めている。

2013年から政権を担当した第二次安倍内閣は、成長戦略の一つに医療を位置づけ、TPP(環太平洋経済連携協定)の締結に向けて、小泉内閣時代に盛んに論議された「混合診療」や「病院の株式会社化」等についても再び論議の俎上に上げようとしている。このほかにも薬の特許期間、著作権の保護問題、外国企業による国家の提訴(ISDS条項)などの問題が浮かび上がる可能性がある。内閣と厚生労働省、それに日本医師会等を巻き込んだ医療改革をめぐる論争は、これからも続くと考えられる。

【日本大学 法学部 教授 矢野 聡】