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したたかにプランBを準備する新社会人の頼もしさ

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

過日、この4月に大学・大学院を卒業して企業に就職した新社会人の方々と話す機会がありました。
有名国立・私立大学、大学院を卒業し、早くから複数の内定を得た上で、就職先を決めた彼ら彼女らは、筆者から見ると「勝ち組ではないか」との雰囲気をたっぷり醸し出しているのですが、ご本人達との会話が弾み進むにしたがって、その前向きな姿勢の中に、したたかな準備と貪欲なビジネス意欲が見えてきました。

就職面接定番の質問の「ガクチカ(学生時代に力を入れたことは何?)」ではありませんが、「学生時代に授業以外で面白かったこと・記憶は何?」とまずは聞いたわけですが、「ほほう」と思ったのは、ほぼ全員が会社を作ったり、設立しなくともビジネスに役立つグループを組織していたりしたことです。
多く見られたのが「学生300人のモニター」ビジネスです。著名な広告宣伝会社や食品・菓子をはじめとした消費材製造業のマーケティングに役立つということで、SNSなどの生成AIをはじめとしたWeb技術を利用して、要望に合ったモニターの性別・居住地域別、購買行動別など、発注者の要望に合ったモニターを、母数数千人の中から抽出して瞬時に揃えることは、小学生のころからスマホが身近な世代ならではのビジネスの芽と言えましょう。学生の内から起業(もどき)の経験を持っている、あるいはモニター集団を学内で形成組織しマーケティング会社から受注している姿は、頼もしく感じるものでした。
しかも中には「学生ベンチャーでは、アイディア勝負は経験できたけれど、親たちの世代から聞く『人を雇う大変さ』は、経験できなかった。だから入社した会社では来年以降人事部への異動を希望しようかなと思う。」と、「勘違いベンチャー舞い上がり」とは一線を画した、ご自分のキャリアを冷静に考えている方も居て、筆者の若かったころとは随分ちがう優れた発想の人材に感服しました。

二人ほどいた、学生時代からダブルスクールに通って実務資格を取る準備をしている方が語ったのは、AI時代にはその資格が無用の長物になるかもしれないとの認識を示しつつ、その資格を活かすというよりは、実務が分からないとAIの結論を検証できないという発想で専門学校に通ったとの話だったことも、印象的でした。

「入社早々から転職することを考える人が多いと聞くが?」と、話の矛先を学生時代から試用期間を終えて本採用となった今の気持の問いかけに変えると、案外「すぐに転職するつもりはない。」という答が全員から返ってきました。
そもそも就職先を選ぶ時から、「自分が成長するための教育研修制度や勤務環境が整っているか。」という点を相当重視して今があるのだから、しばらくはその環境を生かして「本物の会社員」として日々の仕事をこなすことが楽しいし充実していると感じているようです。
転職サイトもよく覗くそうですが、それは今すぐ転職先を探すというよりは、給与水準をはじめ、自分の社外価値・労働市場価値を見ようとしていて、「今の勤務先の変化や成長が自分と一致していれば居続ける。」とはっきり言う方は頼もしい印象でした。逆に言えば折角採用した人材の定着活躍の環境整備に腐心している企業の雇用者としての立場からすれば、なかなか苦労が多いということになりそうです。

半世紀以上前の話しになって恐縮ですが、そういえば筆者と同時期に社会人になった友人は、大手企業から内定を受けてすぐに、自動車運転の第二種免許を取得しようと試験を受けに行ったと聞きました。
第一志望ではない企業に就職した彼は、自分の心の底に沈殿した思いを冷静に把握していて、「いつかケンカ辞めしそうな気がするので、次策としてタクシー運転手になれるようにしておこうと思って。」と語っていましたが、結局一回転職はしたものの、「自分がすきな仕事で、案外向いているかも」と、商品買い付けの仕事で終生過ごしました。本人曰く「プランBを持っていたことで、目の前の仕事に失敗を恐れず強気で挑戦できたことが、結果としてよかったのだろうと思う。」と振り返っていました。
同世代を見ていると、定年退職後も悶々とあてがいぶちの関連会社での迷惑老人化する者もいれば、新たに全く異なる職種のスポットワークで働いて「いろいろな仕事を経験できて楽しい」と目を輝かす者もいて、人生模様いろいろだと思います。
中には、「行ってこい=転職アルムナイ採用」や 「カムバック採用」で、一回転職で退職した会社に戻った者もいます。

今の若者の話にもどれば、半世紀前の新社会人と異なり、ブルーワークやエッセンシャルワークに転じるときに有利になる資格を身に付ける意欲があまり見られないのは、それらの資格がAI時代の職業変化によって風前の灯になりそうだと悟っているのかもしれません。あるいは「AIを駆使できるエッセンシャルワーカー」を思い描いているということもありそうです。
したたかに自分の将来を脳裏でシミュレートしている。そしてそのシミュレーションの中に共通しているのはAI時代の職業変化を冷静に観測し、ブルーワークやエッセンシャルワークの職業はそれでも無くならないのではないかと考え、プランBを模索検討している。その若者たちが担う将来の日本社会は案外捨てたもんじゃないと思えたひとときでした。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)