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2026春闘 満額回答相次ぐ 労使とも歓迎 マスコミ各紙は、どう伝え、どう論調を展開したのかを読み解く
労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫
〇2年連続5%台という高率の賃上げも、大手企業などに絞られ、広く全国の労働者の賃上げには結びつかず、物価高騰の影響を受け、ここ3年、実質賃金はマイナスつづき。2026年1月ようやく実質賃金が1.4%プラスに転じたものの、イラン情勢の緊迫化で原油価格が高騰し、一段の物価上昇が懸念されている中、3月18日2026春闘最大のヤマ場とされる集中回答がだされ、マスコミ各紙がこれを大きく報じた。
〇マスコミ各紙はこれをどう報じ、どのような論陣を張ったのか。新聞各紙を読み解くと、いくつかの課題が見えてくる。
〇まず、どのような表現で2026春闘を報じたか、最短の記事である見出しから眺めてみたい。
〇集中回答のあった3月18日翌日の19日付け朝刊を見ると以下のような活字が目に入ってくる。見出しで、おおまかな記事の内容が理解できるのが新聞の特徴だ。
〇読売新聞は、3面のほぼ全体の紙面を使い、「春闘“満額”大手続出」が主見出し。記事の中で、幾つかの中見出しが課題、問題点を描き出す。その中では「業績不振でも士気向上優先」で賃上げを実施したケースを紹介、課題となるテーマとして「中東情勢、中小に影響懸念」を中見出しで提起する。組合の要求に経営側が満額回答したこと、ただ今後、中東情勢如何で、原油価格の高騰が懸念され、中小の労使交渉に微妙な影響が出そうだと読む。
〇朝日新聞は、2026春闘を1面トップ記事で扱い、主見出しは「春闘 大手満額相次ぐ」が踊り、ソデ見出しに「集中回答日 トヨタは6年連続」が続く。さらに「中小、原油高の悪影響懸念」と今後の課題を掲げる。同時に2面の大半を使い、「危機感にじむ満額回答」と題した解説記事を掲げ、「コストではなく、投資、好条件で人材確保狙う」と2026春闘の特徴を語り掛ける。さらに「春闘 物価高・イラン情勢映す」や「中小、大手との格差是正探る」の小見出しが2026春闘の課題を読者に提供する。加えて「食品値上げ・ガソリン高騰…賃上げ追いついていない」と小見出しで問題点を指摘する。
〇毎日新聞は、1面左肩で、準トップ記事扱い。主見出しは「春闘 大手満額回答相次ぐ」と朝日新聞と同一の見出し。ソデ見出しには「中東情勢、中小に影響懸念」を掲げる。今後の春闘交渉の課題であることを表現する。さらに、「価格転嫁できず下請苦境」の小見出しが現実の春闘の背景にあることを語る。また、3面で「中小賃上げ限界」と題した解説記事が読ませる。
〇日本経済新聞も2026春闘記事を1面トップ記事で紹介、主見出しに「製造業、6割が満額回答」の文字が躍る。ソデ見出しに「原油高、実質賃金の重荷」がつき、小見出しに「中小企業に影響大きく」と課題を提起する。19面にも「春季交渉、人材投資テーマ」と2026春闘の人への投資が課題であることを紹介、賃上げ継続へ生産性向上」を掲げる。
〇産経新聞は、1面左肩に準トップ級扱い「春闘 大手満額相次ぐ」が主見出し。ソデ見出しは、「トヨタ6年連続 5~7%台目立つ」。3面には「製造業 人への投資優先」を解説、「苦境で賃上げマインド変化」を掲げ、「中小 漂う息切れムード」、「原資確保 大手とは違う」の小見出し目がつく。
〇東京新聞は、3面で春闘記事を扱い、主見出し「大手 賃上げ満額相次ぐ」。ソデ見出しは「中小企業交渉に波及焦点」がつく。4面には、「自動車、電機 高水準回答の中 中東情勢 賃上げに影」、「原油高懸念 物流は交渉難航」が解説の見出しだ。
〇マスコミ各紙の2026春闘記事をみると、満額回答相次ぐが主見出しに踊りだし。その一方で、中小企業にどこまで波及できるか。イラン情勢如何で、原油価格の高騰から、今後の交渉の難題であることを読者に知らせようとの記事になっている。
マスコミ論調は、継続賃上げに期待感とイラン情勢に懸念示す
〇これらの報道に引き続いて、各紙の社説(主張)を読み解くと、2026春闘の特徴と今後の課題を理解できそうだ。その見出しと、論調を見る。
〇2026春闘の最大のヤマ場とされた3月18日の集中回答を受けて、マスコミ各紙は、多くの課題を抱えた今春闘をどう捉え、どのような論調でこれを分析したか、各紙の社説・主張から眺めたい。
〇読売新聞の社説の表題・見出しは「中小にも高い賃上げ広がるか」と題し、「大手企業の高い賃上げ回答が相次いだことは評価できる」と記す一方で、格差是正が大きな課題だっただけに、「高い賃上げが中小にどこまで広がるか」、広げたいとの思いが色濃くにじみ出ている。
〇日本経済新聞の社説は、「環境変化に備えて賃上げ維持への改革を」と題し、「深刻化するイラン情勢が賃金交渉に影響することはなかったようだが、今後は経営環境の悪化も懸念される。企業は賃上げの維持へ構造改革を加速すべきだ」と経済紙ならではの指摘が目立つ。
〇毎日新聞の社説は、「原油高騰と春闘・逆風克服し賃上げ広範に」と題し、「原油価格の高騰が企業の賃金交渉を直撃している。原材料や物流コストが上昇する中でも賃上げを持続できるかが問われる」と問題を提起。「賃上げ率は、昨年まで2年連続で5%台となった。今年もそれに迫る高い水準が見込まれている。焦点はこれから交渉が本格化する中小企業の動向である」と指摘する。
〇産経新聞の社説に該当する主張欄では「春闘の集中回答・賃上げの継続を歓迎する」と題し、原油価格の高騰は、企業業績に悪影響を及ぼすことが懸念され、物価上昇を通じて国内景気を冷やす要因ともなりかねない。そうした中で、賃上げを継続しようとする経営側の姿勢を歓迎する。この流れを今後、労使交渉が本格化する中小企業に波及させたい」とする。
〇東京新聞の社説では「春闘集中回答・賃上げの流れ止めるな」と題し、「暮らしを圧迫し続けている物価高に対応するため、賃上げの流れを止めてはならない」と記し、「日本企業を取り巻く経営環境は厳しいが(中略)、働き手不足や人に対する中長期的な投資の必要性を考えれば、賃上げの手を緩める状況ではない。最も必要なことは、雇用の約7割を占める中小企業、労働者の約4割を占める非正規雇用にも賃上げを波及させることだ」とする。
(朝日新聞の春闘に関わる社説は、3月22日現在未掲載)
〇全体的に、2026春闘に向けたマスコミ論調は、大手の集中満額回答を歓迎し、評価。今後の課題として、この流れを中小企業や非正規労働者にどう波及させていくかに課題があることを指摘。賃上げの応援団的な論調が目立ったといえる。
満額回答に労使トップが歓迎のコメント 課題は全国への波及だ
〇2026春闘の最大のヤマ場とされた集中回答を受けた労使トップは、それぞれコメントを公表。満額回答を歓迎し、この流れを全国に広げたいと期待を寄せる。
〇連合の芳野会長(2026春闘中央闘争委員長)は、「賃上げが当たり前の社会を実現しようと語り、①幅広い産業で要求に沿った回答が進んでいる、②生活向上と格差是正にこだわり、賃上げが当たり前の社会を作ろう、③持続的な賃上げの流れを社会全体に広げようとのコメントを公表した。
〇経団連の筒井会長も、「成長と分配の好循環の実現に向け、賃金引上げをコスト増ではなく、企業の成長に不可欠な“人への投資”と位置づけ、各企業の積極的な検討、着実な実行を呼びかけた。賃金引き上げの力強いモメンタムのさらなる定着に向け、その先導役を果たす。1万円以上の大幅なベアや5%を超える月例賃金の引き上げ回答を率直に歓迎する。今後、中小へ波及していくことを期待するなどといったコメントを公表した。

