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YouTuberという職業

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

昨年の暮れ、旅行系YouTuberの「おのだ」さんが出版された「自由に生きるためのスマート旅」という書籍を購入して年始のお休みに読みました。
旅行を趣味とする筆者にとって、彼の動画は数年前から「視ているだけで旅行気分に浸れる」楽しみの一つであり、継続して注目してきたチャンネルです。

ところで、YouTuberが小学生の「なりたい職業」ランキングの上位に食い込むようになったのは、ここ5年から10年ほどのことでしょうか。
「ケーキ屋さん」や「サッカー選手」を凌ぐ人気を博したとき、「一億総活躍」に先駆けて到来した「一億総スマホ時代」を象徴する新しい職業の誕生に、深い感慨を覚えた記憶があります。
筆者は日頃から、職業について次のように話すことがあります。
「ケーキが好きなことと、ケーキ屋で働くことは違う。さらに、店員として働くことと、店長として経営することには大きな差がある。でも、その双方に共通して必要なのは『ケーキが嫌いでないこと』という条件ではないだろうか。」
これはサッカーでも同様で、プレイを楽しむことと、プロとして成功する確率には天と地ほどの差があると思います。だからこそ本書を手に取った背景には、「YouTuberとして成功し、かつ10年以上第一線で活動を継続できる秘訣は何なのだろうか」という素朴な疑問がありました。

一方で、職業分類の観点から見たとき、YouTuberはどの職種に分類されるのかという点も気になります。「一億総情報発信者」となれる時代において、それは「放送」に分類されるのか、「映像制作・広告・芸術・自営業」なのか、あるいは「動画クリエイター」として扱われるのか。だとすれば、「020-99 他に分類されない法務・経営・文化芸術等の専門的職業」あたりに落ち着くのではないか、と考えたりもします。
実際に、厚生労働省の「職場情報提供サイトjob tag」で「YouTuber」を検索してみると、意外にも「企画・調査事務員」という、やや味気ない分類に行きつきます。多くのYouTuberが独立事業主として活動している点に着目すると「事務員」という表現には違和感があります。
例示されている職業別名をみてみると、Webマーケティング事務員、ネット広告・販売促進事務員、マーケティング企画事務員、マーケター、 マーケティングリサーチャーとあります。必要とされる素養や能力という意味では近いようにも思いますが「当たらずしも遠からじ」という微妙な違和感は拭えません。

この違和感を覚えたとき、以前、職業分類の専門家と交わした会話を思い出しました。「ドローン操縦士」はどの職業に分類されるのかと尋ねた私に、その識者はこう示唆してくれました。「操縦という“行為”ではなく、それを使って“何をするか”を見るべきです。」というのです。そうすると例えば、測量や点検が目的であれば「土木・測量技術者」になり、空撮が目的であれば「映像撮影者」になる。実際、最新の職業分類では「ドローンパイロット(撮影)」が映像撮影者の項目に例示されています。農薬散布が目的であれば、それは「農業」に分類されるのでしょう。

閑話休題
翻ってYouTuberという職業について考えると、YouTubeというテクノロジーを使って「何を発信しているのか」に注目する必要があります。
今回読んだおのださんの著書には、もちろん旅の楽しさ、新しい時代のスマートフォンを使いこなして賢く旅をするノウハウが豊富に紹介されていますが、それだけでなく、10年間活動を継続するための工夫や発想が多く詰まっていました。
企画・取材・撮影・録音・編集・発信のすべてを一人でこなすYouTuberも多いと聞きますが、特筆すべきは、彼はすべてを一人で抱え込むのではなく、会社を設立し、「仲間」を確保して、人脈・環境への感謝の心を忘れずに、組織として「わくわく感(たまにドキドキ感)」を発信し続けている点です。
更に、日本のODA、JICAなどの海外支援(平和外交)があってこそ旅が楽しめるということに言及している点にも好感が持てます。

この書籍には、10年間 YouTuberを続けることができた環境やご自身の発想、工夫が数多く記されています。「旅は究極の自己投資」というどこか哲学的なキーワードのもと、会社に所属して働くわけではなくとも、ネットを通じての人脈の大事さをよく理解していることが伝わってきます。おのださんは会社を創り、編集を依頼できる「仲間」を確保し(その仲間の一人の保有する日本製の乗用車で韓国にフェリーで渡って日本ナンバーでドライブするチャンネルもあります!)て「わくわく感(場合によってはドキドキ感)」の発信を続けてきましたし、そして今でも続けているのです。

電車の中やカフェで、人々がスマートフォンに夢中になっている光景は、すでに日常の一部となりました。「一億総スマホ」「一億総放送局」が、情報流通のあり方を大きく変えたことは間違いありません。
発信者側から見れば、かつては埋もれていた表現者が社会とつながるための「通路」ができたと言えますし、受信者側から見れば、テレビの中の出来事だった世界が、より身近で感性の合う投稿者を通じて誰にでも受信可能になった。そんな時代に生まれた職業がYouTuber だといえると思います。

もちろん、その華やかな舞台裏には、挫折した無数の人々や、画面上の笑顔とは裏腹の膨大な編集作業、孤独な企画立案の時間が存在しているはずです。
YouTuberという働き方は、「好きなことを仕事にする」という魅力と同時に、自由と不安定さが隣り合わせの極めて現代的なしごとの形態の象徴といえそうです。それ は誰もが直面しうる「自己責任・自己プロデュース社会」を生きる先行モデルなのかもしれません。そうした期待と危うさの両面を正視しながら、これからもこの新しい職業の行く末に注目していきたいと思います。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)