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謙虚真摯な勝ち組と横柄傲慢な勝ち組と「今のところ負けないで済んでいる組」

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

この夏、起業に成功し創業者の一員として大きな利益を得た方々のお話を伺う機会が何度かありました。
言わば「勝ち組」の方々です。「勝ち組/負け組」という言い方は、筆者としてはその響きや言われた人々の立場お気持を想うと、使うのに躊躇してしまう言葉のひとつではあります。でも、この言葉、一体いつ頃から使われるようになったのでしょう。
ネット検索してみると、落合信彦氏の著書「これからの勝ち組負け組:逆風の時代に成功する条件」がヒットし、初版が1998年9月ですので、この頃なのでしょう。そうしてみるともう四半世紀経つわけですし「失われた10/20/30年」とも重なるようにも思えます。
ともあれ、この長期にわたって日本経済が低迷した中で、起業に成功したわけですから、様々な苦労をされた結果であろうと頭の下がる思いを抱きながらそれぞれの方のお話を伺いました。そして、共通して受けた印象は、大変な努力をされたであろう経験について、ご本人は悪くない思い出として受け止めていて、苦労話を期待した筆者としてはやや拍子抜けしました。

ただ、「今後の生き方」について質問すると、対照的に大きく異なる話となりました。
ひとつには、ご自分が起こされた事業について、あまり愛着を持っておらず、ファンドや商社など「良い買い手」が見つかったらさっさと売却して、その後の人生はあくせく働かずにゆっくり過ごしたいというものです。
なんだかあっさりしてしまっているというのが筆者の受けた印象ですが、「燃え尽き症候群」なのかもしれません。
これと対極にあると感じたのは、上場した結果、株主の主張の中には目前の利益配当ばかりに拘泥する余り、創業精神に泥を塗るのではないかと思えることがあると悩む姿でした。
また、創業者利益を「次の起業の原資」として次のビジネスの構想を語る方もいれば、社会貢献としてNPO法人を立ち上げ社会還元を心がけていらっしゃる方の話もありました。
お話を聞いていて、あまり愉快でない印象の横柄傲慢な方は、毎日株価を気にして一喜一憂してばかりいる話をされ、将来には全く触れないので、これからの夢など持っていないのではないかと思えることもありました。
真摯謙虚な印象を受けた方に共通するのは、学び続ける姿勢、周囲への感謝、社会貢献志向であり、横柄傲慢な方に共通するのは、自己中心的、マウント思考、SNSなどでの自己演出のあくが強く、刺激的であることでした。

振り返って自分を見てみると、もちろん筆者はこのような「勝ち組」に属しているわけではありませんが、後期高齢者になってもこのようにエッセイの連載の依頼があり、若い方々と一緒に仕事ができる刺激がちょうどよいアンバイにある環境にあるわけですから、いわば「今のところ負けないで済んで(人生を送って)いる組」なのかもしれません。
就職活動をしている学生さんに聞くと、勝ち組になるということは「高収入で大企業に勤める人」になることのようですし、「倒産しない安定した公務員こそが勝ち組」「結婚して幸せな家庭を築いている人が勝ち組だ」と、様々な価値観を見ることができます。

謙虚な勝者から学び、傲慢な勝者を反面教師にしつつ、そして「資産を得る=勝つこと」だけを価値としない生き方の模索をしながら、静かに自分の軸を作り上げることができる人々、「勝ち組」ではなく明確な勝者でも敗者でもない中間層が、多少不安定ながらも、自分の価値観や生活を守ろうとする姿勢を貫ける社会、そこにこそこれからの人間ドラマや希望を見ることができるのではないでしょうか。「今のところ負けていない」という立場が、実は一番柔軟で持続可能な道なのではないかと、思ったりもした今年の夏でした。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)