労働あ・ら・かると
私傷病休職は始まり時点を押さえよう
社会保険労務士 川越雄一
〇業務上ではない病気やケガで、一時的に従業員が就業できなくなった場面でも、すぐに解雇するのではなく、一定期間就業を免除し療養に専念させることを、一般に「私傷病休職」といいます。ただ、休職が頻繁にあるわけでもなく、制度の理解不足等から感情が先立ちゴタゴタすることも少なくありません。ですから、日頃から就業規則等で私傷病休職制度を周知・理解させておき、休職の始まり時点で休職期間中や終了時のことを取り決めておくことが重要です。
1.日頃から就業規則で休職制度を周知・理解させておく
〇私傷病休職制度は法律上の義務ではありませんが、多くの会社では設けられており、就業規則に規定されています。重要なのは、この休職制度を日頃から従業員に周知し内容を理解させておくことです。
●いきなりだと感情的になる
〇従業員の多くは、病気やケガで無期限に休職できないくらいのことは分っているはずです。しかし、就業規則が周知されておらず、周知されていたとしても休職制度を正しく理解していない場合が多いのです。また、健康な時は休職など他人ごとだと思います。しかし、病気になり、いきなり休職期間云々という話を切り出されると感情的になります。
●感情的なことほどルールに則る
〇休職期間満了間際の話が感情的になりやすいのは、退職又は復職という判断でお互いの利害が絡むからです。まして、病気の人は精神的にも不安定なことが多く、中高年など転職が難しい場合はなおさら感情的になります。ですから、このような感情が絡む話は極力ルールに則って行うことです。ルールに則ればこそ冷静になれます。
●規定を実態に合わせておく
〇休職制度では、休職事由、休職開始のタイミング、休職期間、復職の条件や手続きなどを規定化します。そして、この規定が実態に合っているか定期的に確認しておきます。例えば、休職開始のタイミングや休職の発令は規定どおりに行われているかどうかです。もし、規定と実態が食い違っている場合は規定を修正するか実態を規定に合わせます。
2.休職の話し合いにおける3つのポイント
〇実際に休職をするような従業員が出た場合は、休職させる前に会社と従業員での話し合いが必要です。その場合のポイントは、職場復帰を意識し、情に流され過ぎず、スケジュール等を具体的に取り決めることです。
●休職の話は職場復帰を意識して行う
〇従業員が病気やケガにより、年次有給休暇を使い果たし欠勤となれば、否が応でも休職についての話をしなくてはなりません。注意すべきは、退職を前提に話し合いをしないことです。そのようなことが相手に伝わると感情が先立ち、話し合いがギクシャクしやすくなります。ですから、会社としては病気やケガが全快し、職場復帰してくれることを望んでいるという姿勢で臨みます。
●情に流され過ぎない
〇従業員も生身の人間ですから病気やケガをすると気弱になり、会社側の言動に対して敏感になるのは当然です。まして、生活の糧を得る従業員としての身分に関係するわけですからなおさらです。ですから、従業員に寄り添う姿勢は大切です。しかし、情に流され過ぎて、休職の始まり段階で話すべきことを話していないと、後々もっと厳しい対応をしなくてはならなくなります。
●スケジュール等を具体的に話し合う
〇休職を始める前に次のようなことを具体的に話し合います。もちろん、話し合うとはいっても就業規則の規定に則って行いますので、それに合わせます。①休職期間はいつからいつまでなのか、②休職期間中の社会保険料本人負担分はどうするのか、③復職手続きはどうするのか、④復職できる基準は何か、⑤復職できない場合はどうなるのか、というようなことです。
3.取り決めたことは書面にしておく
〇休職の話し合いによって取り決めたことは必ず書面にしておきます。この手のことは記憶ではなく記録に残すのが鉄則です。例えば、休職を発令する辞令に盛り込んだら良いと思います。
●口頭だけではトラブルになりやすい
〇休職、特に期間満了時は会社が「復職は無理では」と思うも、従業員は「大丈夫です」と、お互い相反する考えがぶつかり合います。当然ながら、悪気はなくても双方が有利になるような主張をしがちです。休職の始まりに取り決めたことが口頭だけだと、肝心なことが曖昧になりトラブルになりかねません。
●記憶より記録に残す
〇「従業員が気弱になっている時にそんなことを書面にしなくても」という考え方もあります。しかし、どちらかといえば、まだお互い前向きな休職の始まり時点は、冷静な話ができ、少々厳しい取り決めも書面にすることができます。口頭による記憶は状況により思い違いを生じますが、書面の記録は変わりません。
●ゴタゴタ時の話し合いは書面を拠りどころにする
〇私傷病休職においては、どちらかといえばスムーズに行くことより、ゴタゴタすることのほうが多いのではないかと思います。そのような場合は、その都度話し合いが必要になりますが、その際は休職の始まり時点に取り決めたことを記載した書面を拠りどころにします。そうすることにより、当初の約束が明確になり解決しやすくなります。
〇私傷病休職においては、特に休職期間満了時にゴタゴタが起きやすいのですが、それをいくらかでも防ぐには、やはり休職の始まり時点での取り決めが重要なのです。