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退職手続きはテキパキと進めよう

社会保険労務士 川越雄一

 従業員が退職する場合、いろいろな手続きが必要になります。特に離職票というのは、失業給付を受けるのに必要不可欠であり、その交付遅れによりしばしばトラブルが起きます。
 ですから、退職日に手続きを開始するのではなく終了するくらいのつもりで、テキパキと行うことが必要なのです。

1.「どうなっているんだ!」
 A社は従業員200人ほどのビル清掃会社です。そこに、1カ月ほど前に退職したパートタイマーのBさんから「どうなっているんだ!」と、怒りの電話が入ったのです。
 失業給付を受けるために必要な離職票が、いつまで待っても会社から届かないことへの不満をぶちまけたようです。
 不満は離職票交付の遅延ばかりか、在職中に有給休暇を取らせてもらえなかったことや、現場管理者にパワハラを受けたなど次から次に出てきます。「監督署(労働基準監督署)に訴えるぞ!」とまで言い出しました。事務担当者も遅れた事情を説明しようとしますが聞く耳を持ちません。
 A社の従業員は現場管理者を除きほとんどがパートタイマーであり、契約先の施設で働いているため会社に出勤することは基本的にありません。現場管理者はBさんが業務の都合も考えず突然退職したことで立腹し、会社への退職連絡をしばらくほったらかしにしていました。結局、事務担当者へ伝わったのは退職日から2週間くらい過ぎた月末でした。ちょうど月末の締め切り事務とも重なる繁忙期でもあったため、悪気はなかったもののハローワークへの手続きを延び延びにしていたのです。
 退職の連絡が遅れたのに加えて、事務担当者の手続きも遅れたために、退職日から1カ月を過ぎても離職票が交付されない状況となっていたようです。

2.モタモタは百害あって一利なし
 会社が行うべき手続きにはそれぞれ期限があり、モタモタしてそれを過ぎてしまうと、直接の不満ばかりか、それ以外のことでも会社攻撃のネタにされやすいものです。
●退職後10日内に手続きが必要
 従業員の退職時には、いろいろな手続きが必要です。そして、その手続きには法律で手続き期限が定められています。事例で問題となったのは、退職者が失業給付を受けるために必要な離職票ですが、退職日の翌日から10日以内となっています。10日というのは当然暦日ですからあっという間に過ぎてしまいます。
●法律には勝てない
 中には突然退職したりして会社に迷惑をかける人もいるため、手続きをしてやる気にもなれない場合もあるかもしれません。もちろん、退職者が会社の立場で考えてくれれば、手続きが少々遅れるのも仕方ないと納得するのでしょうが、そのような人はめったにいません。そして、手続き先であるハローワークも、手続き期限が法律で決められている以上、口が裂けても会社を擁護するような言動はしません。やはり法律には勝てないのです。
●不満は離職票だけに留まらず
 従業員にとって退職するということは、生活の糧である賃金が入らなくなることを意味します。もちろん、それを承知で退職したといえばそうなのですが、だからこそ失業給付が受け取れるかどうかは大きな問題です。人は追い込まれると、攻撃的になる場合がありますが、事例のケースでも直接の不満ではなかった有給休暇やパワハラなどを引っ張り出して攻撃のネタにされてしまうのです。

3.手続きはテキパキと行い次のステージに進んでもらう
 退職手続きは意識してテキパキと行う必要があります。そうすることにより、会社との人間関係がゼロというよりマイナスとなった従業員へ早く次のステージに進んでいただき、会社のことを「忘れてもらう」のです。
●失業給付を早く受けさせる
 自己都合退職の場合は、失業給付を受給できるまでに3カ月間の給付制限がかかりますので、できるだけ早く離職票を持ってハローワークへ出向かなくてはなりません。そのために会社としては、1日も早く手続きして離職票を交付することが必要です。もちろん、感情的にそうしたくない場合もあるでしょうが、ここは割り切るしかありません。
●退職日は手続きの開始ではなく終了日と心得る
 退職日を手続きの開始とするから離職票などの交付が遅れるのです。もちろん、ハローワークが手続きに応じてくれるのは退職日の翌日からです。しかし、離職票の作成や本人の確認署名などは、退職日前でもできることです。ですから、退職日が確定したら社内手続きを開始して退職日には終了するようにします。 
●会社のことを忘れてもらう
 退職時の事務手続きをテキパキと行う目的は、退職者に早く次のステージに進んでもらうことにあります。次のステージというのは、早く失業給付を受給できるようにしてやることや、新たな会社への再就職であり、意識をそちらに集中してもらうことです。意識がそちらに集中する分、会社への不満は相対的に弱くなります。つまり、会社のことを早く忘れてもらうのです。

 退職者にとって、失業給付の受給は大きな関心ごとです。だからこそ、早く受給できるようにテキパキと手続きして進めることが、トラブル防止の“かくし味”なのです。