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紙の求人情報とWebの求人情報の間を埋めるもの

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 昨年12月の本欄で「ITの進化で機能拡大する求人情報提供業と問われる公共性」について申し述べましたが、一方で従来からの「紙」の求人情報提供も、一定の役割を果たしていることは間違いありません。

 公益社団法人全国求人情報協会のHPを閲覧しても、民間求人メディアへの広告掲載件数は、有料求人情報誌こそマイナス基調で3万8,069件(-10.0%)であるものの、先月8月の求人広告でフリーペーパーは34万8,036件(前年同月比+2.5%)、折込求人紙は9万2,492件(前年同月比+16.8%)と、紙版による求人広告件数は、求人サイトの71万7,600件(前年同月比+25.4%)には及ばないものの、その約3分の2の件数の情報提供を担っています。

 これらの数値には含まれない新聞や雑誌掲載の求人広告を加えれば、まだまだ求人サイトに匹敵する求人情報件数を、「紙」の媒体は提供していると見てもいいように思います。

 但し、その1件当たりの情報量はいかがかという視点でみると、言うまでもなく、大きな隔たりがあるのは一目瞭然です。Webの求人情報には「紙面面積による制限がない」と言ってよいほどだからです。

 若者雇用促進法改正(勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律)によって、今年の3月からの新卒求人(学校卒業見込者等であることを条件とした労働者募集)においては、その職場情報について、企業規模を問わず(ⅰ)幅広い情報提供を努力義務化し、(ⅱ)応募者等から求めがあった場合は、3類型(ア:募集・採用に関する状況、イ:職業能力の開発・向上に関する状況、ウ:企業における雇用管理に関する状況)ごとに1つ以上の情報提供が義務化されました。

 (ア)類型については、「過去3年間の新卒採用者数・離職者数」「過去3年間の新卒採用者数の男女別人数」「平均勤続年数」の内から一つ以上、(イ)類型については「研修の有無及び内容」「自己啓発支援の有無及び内容」「メンター制度の有無」「キャリアコンサルティング制度の有無及び内容」「社内検定等の制度の有無及び内容」の内から一つ以上、(ウ)類型については「前年度の月平均所定外労働時間の実績」「前年度の有給休暇の平均取得日数」「前年度の男女別育児休業取得対象者数・男女別取得者数」「役員に占める女性の割合及び管理的地位にある者に占める女性の割合」の内から一つ以上と、一昔前の頭の固い採用担当だったら「そんな頭でっかちな学生はいらん!」と怒り出しそうな気もしないでもない多くの項目の情報公開が求められる時代になりました。

 もちろんこれらの情報公開の方法には「ホームページでの公表」が真っ先に掲げられ、就活生たちがPCやタブレット、スマートフォンを保有し利用していることを前提としているルールとなっています。

 しかし、ここで指摘しなければならないことは、この若者雇用促進法を可決するにあたっては参議院厚生労働委員会で附帯決議が為されており、その中には「労働者の募集に関する情報を提供する事業者は、青少年の適職の選択に資するよう事業を運営すべきであることに鑑み、労働者の募集に関する情報を提供する事業者に対し、募集を行う事業主に職場情報の積極的な提供を求めること、青少年に提供する情報の内容及び量が適当なものとなるよう配慮すること」と書かれていることです。

 この附帯決議を尊重しようとすればするほど、記載面積に制限のある「紙」の求人情報提供事業者は、新卒求人を扱うことが物理的にできなくなるのではないか、さらにこの多量の職場情報公開の考え方が、新卒求人にとどまらず、中途採用にも適用されるような時代が到来したら、「紙」の求人情報提供事業者はどうしたらいいのだろうか、という考えが脳裏をかすめます。

 一方「Webの普及の状況」に視線を転じてみれば、現在の日本の情報通信機器の普及状況について、平成26年末で「携帯電話・PHS」の世帯普及率は94.6%であり、「携帯電話・PHS」の内数である「スマートフォン」は、64.2%(前年比1.6ポイント増)と急速に普及が進んでいると、「ICTの過去・現在・未来」を特集テーマとした総務省の「平成27年版情報通信白書」は述べています。

 内閣府が4月に発表した消費動向調査でも、2015年度のスマートフォン(スマホ)の世帯あたりの普及率は従来型携帯電話(ガラケー)を初めて上回っており、スマホの普及率は67.4%(前年度比6.8ポイント増)で、スマホ以外の64.3%(5.5ポイント減)を逆転しています。同年度の携帯電話の普及率は100世帯当たりの保有台数は235.9台で、2台持ちの人が増えているともみられます。これ以上詳しい調査データはみつかりませんが、これの分母を労働人口や求職活動人口にした場合、もっと保有率は高くなるのではないかと推測しています。

 筆者が担当している民間職業紹介事業者の利用を巡っての人材の方からの相談でも、最近、「就職先の労働条件・職場環境が当初聞いていたことと違う。」とおっしゃるケースが散見されるのですが、筆者から「どのような方法でその求人を見つけられたのですか?」と伺うと、「スマホで見つけました。」とお答えになる例があり、小職が「スマホでどのようなサイトを見つけて、どのような操作をしてその求人に出会ったのですか?」と質問しても、「スマホで」を連呼されて、その時スマホに表示されたサイトが、ハローワークインターネットだったのか、民間の求人情報サイトだったのか、人材紹介会社が求職登録を誘引している画面の求人例だったのか、あるいは求人者が自社で開設しているホームページの求人ページだったのかは、記憶していらっしゃらないことがよくあります。

 求職活動をしている人材にとっては、「経由」したWebがどのようなものであったのかには無関心で、「スマホに表示された求人」をたどって、記載内容を見て読んで、そのページから求人に応募し、選考を経て採用されたということは、電話のお話でもよく理解できますし、自然な就職活動の流れなのだということは、理解します。

 しかし、ご連絡いただいている人材が、「最初の話と違う」とおっしゃるその「最初の話」が、一体誰の責任で掲載され、誰の責任で点検された上での求人の際の「労働条件提示」だったのかを伺わないと、どうしてそのような行き違いが起きてしまったのかがわからず、仲介したのが我が協会の会員なら、すぐに事情を聴取して解決策を提示するのですが、そうでないと、職業紹介事業者なのか、求人情報掲載情報サイトなのか、企業自身による採用HPだったのかが判らないと、適切な苦情の申立先をご案内したくても戸惑ってしまうことがよくあるのです。

 昭和の時代の新聞三行広告では、「営業職募集・委細面談」と連絡先電話番号しか掲載されていなかったわけですし、応募先とトラブルが発生してしまっても新聞名くらいは切抜きを持っていたりして判明したのだろうと想像します。「応募行為」がWebですとそのWeb経由という双方向の仲立ち機能があるのですが、紙の時代は広告掲載は求人者からの一方的な求人情報を掲載していても、「応募」という情報の折返しには関わらず(双方向ではなく片方向の情報にしか直接関わらなかった)、応募や問合せは別途郵便や電話が使われたのが一般的だと考えられます。しかも「紙面の面積の制限」があるからということで、不十分な情報掲載でもやむを得ないという免責暗黙了解があった時代だったのだろうと、思います。

 しかし、前述の、おそらくはこれからますます多くの人材が利用するであろう「スマホで応募先情報を得ました」という話と「紙面の面積には限界があるのだから、情報は一部しか掲載できない」という話を、交互に思い浮かべていると、これからの「紙とWebの融合」による情報提供の姿が浮かび上がっては来ないでしょうか。

 最近の有料求人誌のアルバイト募集には「QRコード」が掲載されており、応募者はスマートフォンなどでこのQRコードを読み取って求人者の携帯用サイトにアクセスし、知りたい情報を得たり応募したりすることが見られます。

 これを新聞の求人広告にも応用して掲載するようにすれば、いわゆる「三行広告」でも、必要とされる多量な情報も提供することになるのではないでしょうか。「月給40万/トラック運転手募集」としか記載されていなくても、QRコードが一緒に掲載されていてスマートフォンでその求人者や求人サイト掲載情報にアクセスできることが普及し一般化すれば、「紙の面積による制限=提供できる情報の限定」から解き放たれ、若者雇用促進法によって新卒求人に求められるようになった多量の情報公開が、新卒求人以外にもひろがり、若者でなくても「適職に転職できる」仕組みが実現できるのではないか、と思います。

 新聞の求人広告欄にもQRコードがずらりと並び、そのQRコードの先の応募用ページの豊富な情報を見て就職活動をする時代が到来するとき、新聞社の方は求人欄の三行広告の営業だけでなく、当然にそのQRコードの先の応募用ページの作成も受注するようになれば、これまた紙面面積の拡大に留まらない「販売商品の拡大」にもつながると思います。

 また昭和の時代の新聞広告でも、職種によって掲載紙を夕刊紙や経済紙、一般紙を使い分けたりしていたのですから、「年齢不問ですが、でもスマホを使いこなせる程度のITリテラシーの有る方」というスクリーニングとして活用する知恵があっても良いと思います。

 「デジタルデバイド」によって、QRコードが利用できない方々には、ハローワークの職員の方がカウンターのタブレットを使ってその利用をアドバイスする光景がみられることも案外近いのかもしれません。ご自分で情報を収集しきれない方々、編集や取捨選択をしきれない方々に、より集中した就職支援サービスを提供することができること、人でなければできない助言という付加価値にますます力を注げることができるようになると、より効率的で判断しやすい就職転職活動が可能になるのではないかと考えています。
                                                    以上

 (注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)