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わが国の企業経営と人材の関係をどのように考え対応するか その5(最終回) グローバル人材をどう育成するか

                                          MMC総研代表 小柳勝二郎

 経営のグローバル化に伴って、最近、企業がとりわけ重視しているのがグローバル人材です。日本は長い間、同一民族で国内重視の経営をしてきました。そのためグローバル経営の共通語と言われる英語のレベルは低いことに加えて、外国人と話す機会も少なく、外国の文化や慣習、宗教、民族といったことにあまり関心を持たなくてもそれなりの生活やビジネスをしてきたように思います。

 グローバル経営が進展し、好むと好まざるとにかかわらず日本企業が成長・発展していくためには、世界のマーケットで競争し、勝つことが出来なければ、国・企業ともそれなりのポジションを維持していくことができず国民も厳しい状況に追い込まれることになります。
 世界の中で国・企業のポジションを維持・向上させていくうえで最も大事なことは人材です。とりわけ重視されているのが遅れてきているグローバル人材の育成です。

 グローバル人材とはどのような人材を指すのかということになります。すぐ頭に浮かぶのが外国語、とりわけ英語が話せるかということになりますが、そう単純な話でもなさそうです。
 外国語を話し理解できるということは大事なことですが、単に外国語が話せるということだけではグローバル人材とは言わないと思います。そもそもグローバル人材の明確な定義があるわけでもないため、使う人や会社によって違いが出てきますが、まずは実態を見ることにします。

 政府も経済団体もグローバル人材の育成・活用について真剣に議論し、対策を検討しています。まず経団連が実施した「グローバル人材の育成・活用の実態調査」{2015年3月発表、調査対象は経団連会員企業、地方別経済団体加盟企業(非会員企業)}の内容を見るとグローバル経営を進める上での課題として、「本社のグローバル人材の育成が海外事業展開のスピードに追い付いていない」が最も多く、次に「経営幹部層におけるグローバルに活躍できる人材不足」「海外拠点の幹部層の確保・定着」となっています。
 また、グローバル事業で活躍する人材に求められる素質、知識、能力としては、「海外との社会・文化・価値観の差に興味・関心を持ち、柔軟に対応する姿勢」、が最も多く、次いで「既成概念にとらわれず、チャレンジ精神を持ち続ける」、「外国語によるコミュニケーション能力」、「グローバルの視点と国籍、文化、価値観、宗教等の差を踏まえたマネジメント能力」等となっています。これらの点は今までいろんな機関が調査している点と当然ながら同じようなことが指摘されています。

 問題となっている「グローバル人材の定義」があるのかとの問いについては、「定義していないし、今後も定義する予定がないという」企業が非会員企業に多いが、「定義はしていないが、今後定義する必要性を検討」と回答した企業では経団連会員企業が多くなっています。
 上記経団連調査で、現時点でグローバル人材を定義していない理由として「定義する必要を感じていない(海外事業の占める割合が低い等)」は、非会員企業に多く、「求められる人材要件(素質、能力等)が明らかになっていない」が会員企業に多くなっています。また「社員全員がグローバル人材と捉えており定義する必要がない」という企業もあります。

 グローバル人材を定義するのは各企業で多少異なりますし、このような条件だと決めつけることも難しい点はありますが、グローバル人材と銘打つからには、企業がどのような条件を考えているかをある程度明示しておいた方が働く人にとって対応しやすいと言えます。グローバル会社の最たる業種であるE商社の定義を見ると「国籍・人種・性別・年齢に関わらず、多様性(ダイバーシテイ)を受け入れ、企業理念・バリューを共有し、各地域のみならず世界にアンテナを張り、その動きを自らの業務領域に生かし、ビジネス・シナジーを生み出し、グローバル視点で活躍できる人」としています。商社の例ですので語学等は当然ということで定義に入っていませんが、他業種では語学の文言が入っている企業もあります。

 企業によって表現の違いがありますが、多くの企業の定義の中には上記事例の趣旨が含まれているといってよいでしょう。
 政府の「グローバル人材育成推進会議中間まとめの概要」の中でグローバル人材の概念を次のように整理しています。
 要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力、要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感、要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー等が記されていますがその他に、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メデア・リテラシー等となっています。

 日本人社員をグローバル対応化するために、どのように強化しているか上記経団連の調査で見ると、「若手社員を海外拠点や子会社などに短期・長期の研修・OJTに派遣」、「(社内・社外を問わず)外国語の研修の機会を提供」が多くの企業で行われています。その他「海外留学の機会(ビジネススクール、ロースクール等)を提供」、「日本とは異なる価値観や文化、習慣を持つ環境で働くための研修機会を提供」、「昇進・昇格の条件に一定レベルの外国語能力を要求」、「海外拠点の外国人社員と本社社員の合同研修を実施」など各企業は独自の考え方でグローバル人材の育成に取り組んでいます。

 グローバル時代を迎えて、グローバル人材の必要性が高まっています。日本は国内志向型の経済環境や企業の雇用・処遇制度が強かったこともあって、グローバル化に対応した人材育成が遅れている状況にあります。以前は、海外留学を志向する人材もそれなりにいましたが、数年前までは低下傾向が続き、中国、韓国、インド等アジア諸国に比べて少ないといことが問題になり、国や経済団体もグローバル人材の育成に本腰を入れるようになりました。小学校から大学・大学院までの学校教育全体に関係する問題ですのでその見直しは大変ですが、今後の日本の存在が決まる大問題ですので広い視点に立った構想力の下で早急に対応する必要があります。

 経営のグローバル化に人材育成が追いつかない日本企業も最近ようやく対応策を打ち出しています。例えば、若いうちに全員一定期間海外経験をさせるとか、英語を社内共通用語とするとか、昇進・昇格の条件に英語能力基準を設定するなど社内の意識や諸制度を改善・導入するとともに、海外派遣にあたっては、「異文化への適応」、「ストレスマネジメント」、「赴任先の歴史、文化、生活」、「安全対策」、「赴任先の業務知識(法務など、貿易実務など)の教育もしています。

 中国や韓国企業のグローバル展開は、経済環境や国民のハングリー精神もあって日本より進んでいるし、厳しいとも言われています。日本政府・企業は、早急にグローバル人材育成の取り組みを推進し、多くの人材が、日本の良さを活かしつつ国際社会から評価される国として、積極的に世界の諸課題にチャレンジし、貢献していくことが強く望まれます。