インフォメーション

労働あ・ら・かると

労働の視点から見た子供の貧困

ユニセフ(UNICEF:United Nations Children’s Fund 国際連合児童基金)が2012年に公表した調査結果によると、世界の主要35か国の調査では日本の子供の相対的貧困率が下から9番目と高いことが報告された。これを1人当たりのGDPが特に高い20か国中でみるとアメリカ、スペイン、イタリアに次いで4番目の高さであった。

子供の貧困の定義は、「一定以下の所得世帯で暮らす相対的に貧困の18歳未満の子供の存在及び生活状況」のことである。ちなみに「一定以下の所得」というのはその世帯の年間収入から税や社会保険料を差し引いて、その金額を世帯員の人数で調整した額(等価可処分所得)の中央値50%(貧困線)を下回る度合いを示すものである。これが相対的貧困と呼ばれる所以となっている。

わが国の政府に衝撃を与えたのは、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)が2006年の「対日経済審査報告書」に日本の相対的貧困率がアメリカに次いで2位であり、同じ報告書に子供の貧困率も高いという指摘があったことである。内閣府が行っている「日本の相対的貧困率に関する調査」によると、子供の貧困率は2009年で15.7%にも達している。このうち、世帯主が18歳以上65歳未満で子供がいる世帯の貧困率は14.6%である。中でもとりわけ1人親の世帯の子供の貧困率は50.8%となっていて、これがわが国の子供の貧困の元凶であることをうかがわせる。

何故にこのような数字になるのであろうか。その原因の一つは、「親が働いているのに貧困」という事実を指摘できる。日本の一人親の実態を見ると、母子世帯がおよそ124万世帯、父子世帯が22万世帯(2013年全国母子世帯等調査)である。このうち親が就業している割合は母子が80.6%、父子は91.3%と、ほとんどが就労世帯であることが分かる。このうち、数が少ない父子の親の就労形態は正規労働(67.2%)が主で、自営業(15.6%)やパート、アルバイト就労(8.0%)の比率がそれほど高いわけではない。

これに比べて母子世帯の場合、パート・アルバイト就労の比率が最も多く(47.4%)、正規の社員、従業員の比率は39.4%に過ぎない。当然ながらこれら非正規労働に従事する女子は、不安定就労をしているという事実から、生活を続ける基礎としてのある程度の資産を欠いていることが十分に予想される。また育児や子供の病気が関わってくることから、正規労働による十分な自己能力発揮の機会を自ら閉ざしていることも考えられる。

さらに正規労働者に比べて賃金が低く、子供の医療費や教育の経費等が十分に準備できない状況にあることも推測がつく。この結果、わが国の子供の貧困世帯の特徴として「有業の一人親世帯」の貧困率が「無業の一人親世帯」の貧困率に迫るという指摘をOECDから受けるという事態となっている。

子供の貧困を指摘されたわが国の政府や自治体が最近10年に行ってきた政策は、結果からいえば何の役にも立たないものばかりである。わが国の「子どもの貧困」という全世界が発している汚名を、だれの責任で行動し、どのように雪ぐのか。喫緊の課題としてこれが問われている。女性労働の側に立つこと、一人親世帯の育児の苦しみを分かち合うこと、そして人間として懸命に生きようとする子供と親に、政府、自治体、そして事業主と労働組合も、本気になって援助を行う具体的手法を示すべきである。

【日本大学 法学部 教授 矢野 聡】