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労働あ・ら・かると

採用選考の難しさと紹介予定派遣

4月になり、企業の来春新卒生への面接選考が其処此処で行われているようです。
先月のこの「労働あ・ら・かると」に就職試験の受験料のことを書きましたが、そのことを含めて企業の採用担当者の方々のお話を聞く機会がありました。みなさん採用のベテランの方たちでしたので、「採用面接のコツを一言で言うと?」という質問をしてみましたが、なかなか口が開きません。質問の角度を変えて「これぞ採用担当者冥利と思った場面は?」と聞いてみると、「面接官の中で、採否について意見が分かれ、自分なりに応募人材からオーラのようなものを感じてその人材を強く推して、結果採用に至り、その後その人材が企業の中核として活躍した時」という答えをした方が多く、一番のベテランの方は「採用した人材が取締役や社長になった時」とおっしゃっていました。

ただ、就職試験の受験料のことに話が移ると、皆さんが言うには「自分が就職活動をした時代と異なり、応募者の絶対数が増えすぎて、書類選考が難しい。面接に進む候補者の数を絞り込まないと、面接官も疲れてしまって勘が働かなくなるし、一方で就職活動支援サービスが悪い意味で進歩して、応募作文などは本当に応募者の実力を表したものか判断しづらい。」「書類選考で外してしまった学生の中にも、有望な人材が居て、自社の戦力と成り得る人材を取りこぼした結果になっているのではないかという不安感はいつでもある。」「面接をしていても、『この学生は当社以外に一体何社エントリーし、本音はどこに行きたいのだろう?役員面接に進んでも結局辞退するのではないか?』という疑念が拭い切れない。」「その意味で『本気で当社に入りたい人材に絞り込みたい』という気持ちで就職試験の受験料を徴収する気持ちは判る。」という声は真に迫るもので、就職支援サービス業が手とり足とり就活生を教育することには否定的な、苦々しく思う表情の方がほとんどでした。また、1人で100~150社はエントリーする現在の新卒就職と採用選考の状態が好ましいと考える方は皆無で、「新卒就職支援ビジネス」に対する厳しい指摘はひとつひとつもっともに聞こえ、人材ビジネス業界に関連するところに身を置く私としては、良心的な採用担当者の方々の指摘には、身の縮む思いでした。

話は「面接選考の難しさ」に移りましたが、選考手段というものは、各社各様に様々な工夫を重ねてきていますし、長い間「書類選考(学業成績/職務経歴/保有資格)」「適性検査(性格検査/SPIやGAB、クレペリンなど個性の素質や職業適性を見ようとするものなど)」「面接面談による総合選考」等の手法が使われていますが、中でも、特に経験者採用の場合は「職務経歴(書)」と「面談」が軸になっているように思います。

前段申上げた求人企業側の面接のベテランである採用担当者も、難しいながら面接による判断に重きをおいていると伺いました。いくら‘就職予備校’(こんなビジネスがあることが驚きですが)で「面接トレーニング」を受けていても、面談の際に「なんだか質問と回答が噛み合わないな」と見抜けるものだそうです。

もっともそれは今回お会いしたような比較的有名企業で、新卒学生も、経験者採用の応募者も、それなりの数の応募がある方々の話で、とても印象の良い会社でも中小企業で知名度が無い場合、貴重な数少ない応募者の中から採用選考することは難しい、と話される社長さんとお目にかかったことは数知れずあります。10年ほど前に話題を呼び、今では小学校の教科書にも登場する豊橋の樹研工業の「先着順採用」も、「いくら何時間も面接したって判らない。一緒に働けばみんな輝く。」という発想が底流にあるように思います。

安倍内閣が誕生し、日本の労働行政の方向が「失業なき労働移動」へ大きく舵を切るなかで、ちらほら聞こえるのが「紹介予定派遣」という言葉です。ご存知の方も多いと思いますが、労働者派遣事業と職業紹介事業双方の許可を得ている事業者が、言わばこれを組み合わせた「パッケージ紹介」として、求人企業に採用候補の人材を紹介する仕組みで、最長6カ月の派遣期間(派遣元人材会社に雇用され、派遣先=応募先求人企業の職場で働く)を経て、企業・人材双方が十分に相性をお互い見極めた上で、良ければ直接雇用に至るシステムです。これも前述の様々な採用手法の工夫に肩を並べて良い仕組みだと私は思います。

「1時間や2時間面接しても人となりは判らない」とおっしゃる求人企業向けには、「10回の面接より1カ月一緒に働けば、お互い良く判った上で雇用が生まれる訳ですから、その後の定着もよいですよ。」という台詞は、とても有効だと思います。人材側にしても、例えば求人広告や求人票に「残業は月末期末に若干ある位です。」と書かれていても、実際入社してみると上司が帰るまで部下が帰れないという前近代的な会社がまだあることも否定できないので、派遣の形態でその職場を見る(言わば人材側から企業を面接する)ことができる訳ですから、雇う側働く側双方にとってなかなか有効な仕組みではないかと思うのです。

厚生労働省の発表(労働者派遣事業報告)によれば、平成24年度に紹介予定派遣された人数は全国で5万3,191人(前年比118.2%)で、その約8割に当たる4万2,718人に対し職業紹介が実施され、結果2万8,815人(前年比111.1%)が直接雇用に結びついたと発表されています。企業側が採用しなかったケースも人材側が辞退したケースもあるでしょうが、5万3,191人が紹介予定派遣をスタートさせて、その半数以上(54.2%)が直接雇用に結び付いたわけです。

残念なことは今ある派遣元事業所のうち、この紹介予定派遣を取扱った事業所数が、たったの7.4%しかないことです。まもなく国会での改正派遣法の審議が始まると思いますが、最終的には直接雇用が間接雇用より良いという考えならば、今後、直接雇用に結び付く割合をどのように上げていくのかという将来的課題はあるにしても、もっと普及して良いシステムではないかと思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸 健二 一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長】