インフォメーション

労働あ・ら・かると

一人親女性労働の現実と方向性

日本の就労問題で現在最も深刻で改革が必要なのは、いわゆる母子家庭の一人親女性であろう。全国母子世帯等調査の直近の調査(平成23年)によれば、全国の母子世帯数は推計で123万8千世帯に及ぶ。このうち、祖父や祖母、その他の兄弟などと同居している者もいるが、全く母子のみで暮らす独立母子世帯は約76万世帯といわれている。年次がややずれるが、このうち児童扶養手当を受給しているのは平成25年で99万3345世帯である。児童扶養手当は、働いていても一定以下しか年収のない母子世帯に給付されることから、一人親で働く女性の収入の低さが分かる。実際、総務省統計局の家計調査(平成23年)によると、就労している母子家庭の割合は全体の80.3%だが、このうち就労の形態で最も比率の多いのがパート・アルバイトの従事者で、全体の半分近い47.4%である。正規の職員、従業員として働いている一人親女性は39.4%に過ぎない(残り2.6%は自営業)。これらの世帯の年間総所得の平均は252万3千円であるが、ここから児童扶養手当など、様々な給付を除いた年間平均稼働所得は、わずか181万1千円と、月平均にするとわずか15万円ほどの所得しか得ていないことになる。母子家庭の悲惨さが浮き彫りになる数字である。絶対的貧困の状況下で育つ子供たちのすべてが、大きくなって互いを信頼したり、尊敬や献上を示したり、相手を思いやる大人として成長するだろうか。むしろ逆の悲劇的な結果が浮かび上がる。

日本の場合、幼児や児童に投下される費用は多い。子どもの養育や塾、学習教材などの費用を工面するため複数の職場で働いたり、または収入が比較的高い飲食店のサービスや風俗で働く、などの努力をしている女性も決して少なくない。この努力の結果、自身の健康を害したり、長期的には不要な出費を強いられ、さらに窮乏化を招くことになる例も後を絶たない。多くの一人親女性は、自分の生活必需品の購入を削って、子供の養育や教育に充てている現実がある。その中でさえ、将来の明るい展望を見出さずに毎日を過ごしているのが母子家庭の現状であろう。

このような一人親女性労働の現実問題に対する解は比較的簡単である。一人親女性が子育てを行いながら収入、雇用などの面で有利な条件下で仕事に就き、経済的に自立した生活が送れればよいのである。確かな就労、安定した収入、そして自信を持って生きる毎日こそが、子供の成長にとって、何よりも重要な要素である。それではなぜそのようにならないのか。これには大きく2つの要因があると考えられる。一つ目は一人親女性がもともと就労の機会に乏しく、就労経験も持たない場合があるということである。さらに出産、育児によって就業が中断するなどして、通常の社会が要求する雇用・労働の要求を満たせない場合が多いという点を指摘できる。二つ目は事業主側の母子家庭に対する理解と支援の姿勢が著しく欠けているという現実である。これが厳しい雇用条件や低賃金、不安定雇用を生む要因である。遅まきながら事態の深刻さに気付き始めた政府は、平成15年前後から法の整備と具体的な支援策に乗り出した。次号では、政府の一人親女性労働に対して具体的に行われている社会政策の現状とその評価について述べる。

【日本大学 法学部 教授 矢野 聡】