安全衛生

そこが知りたい!労災裁判例にみる労働者の過失相殺

カテゴリー ー 安全衛生
著者 安西 愈 著
編者/編著者/編集
監修
発行 労働調査会
発行日 2015-01-26
判型/頁数 A5判/516頁
価格 2,970円(税抜価格2,700円)
送料 【1部 330円税込】
ご注文の合計部数により料金を設定しています。詳細はこちらまで
ISBN 978-4-86319-429-8
備考
制作
現在庫: 在庫無し
買物かごへ入れる

要約

労働安全衛生法の多くは、「事業者は~しなければならない」又は「事業者は~をさせなければならない」として、使用者の安全配慮義務を課していますが、労働者に対しても努力義務や守るべき事項として自己安全配慮義務が課せられています。労働者が労働安全衛生法に定められている義務を守らず、自己安全配慮義務に違反して労働災害が発生した場合には、過失相殺が行われています。
本書は、労働災害の撲滅を目指し、労働者らの安全意識を高めるべく、労働災害について、10%~80%に至る各過失割合ごとに、それぞれパターン別に類型化して、いかなる事故につき被災労働者側にどの程度の過失相殺がなされているか、安西愈弁護士が詳しく解説し、とりまとめたものです。労働災害の過失相殺について、わが国で初めての体系書!

目次

第1章 労働災害の過失相殺――総論

1.労災保険給付と民事賠償の併存請求と過失相殺――労災の損害補てんの特質
2.過失相殺の歴史的な流れ――過失相殺の理論はローマ法時代に発生
3.過失相殺とは何か――損害賠償の認定上における被害者側の「過失の斟酌」
4.労働災害の過失相殺――大審院時代から過失相殺が認められている
5.労働災害については過失相殺は否定すべきであるとの主張――労災補償の場合と違いは認められない
6.労働災害の労使の義務と過失相殺――“労働者の不注意だった”だけでは済まされない
7.過失相殺についての考え方――相殺率の算定方法3つの説
8.「安全配慮義務」と「不法行為」では過失相殺に差があるか
9.労災事故の民事賠償の「請求権競合説」による過失相殺の同一化
10.工作物の瑕疵責任についても過失相殺が行われるか
11.労災保険給付と過失相殺との関係はどうなるか
12.過失相殺は裁判所の職権事項か
13.過失相殺前提の一部請求は
14.労働災害の過失相殺の実情は-過失相殺の割合はどうなっているか-

第2章 労働災害の過失相殺の割合別事例(判例)の一覧表

1.10%~の過失相殺の事例
2.20%~の過失相殺の事例
3.30%~の過失相殺の事例
4.40%~の過失相殺の事例
5.50%~の過失相殺の事例
6.60%~の過失相殺の事例
7.70%~の過失相殺の事例
8.80%~の過失相殺の事例
9.使用者の責任が否定された主な事例

第3章 労働災害の過失割合ごとの類型別事例について

〈10%程度の過失相殺〉
〔類型1〕崩落のおそれなど著しい環境的危険のある個所における作業で、使用者側に万全の安全管理に欠けたところがあったが、労働者本人にも著しい環境的危険を意に介さず漫然と作業した過失のある場合
〔類型2〕車両の通行や荷物・材料の運搬が頻繁に行われている場所において、他の車両等に注意を払わないで後ろ向きや下向き等で作業をしていて被災した場合
〔類型3〕災害発生の極めて高い危険個所で使用者の防止措置が重大である場所において、被災労働者自身も事故発生の高い不安全な行動をした場合
〔類型4〕移動式クレーンの操作にかかわる事故で、共同作業として関与しない近隣作業員の不注意の場合

〈20%程度の過失相殺〉
〔類型1〕危険性の高いプレス、シャーリング、カッター等の機械操作につき機械設備にも瑕疵があったが、被災労働者にも操作等の過失があった場合
〔類型2〕建設現場における建設機械などの作業について使用者側に安全管理の違反があるが、労働者にも操作等に関する被災者自身も違反した過失がある場合
〔類型3〕高所作業等墜落の危険があるのに会社側にも措置義務違反があるが、労働者側にも危険性の高い軽率な不安全行動があった場合
〔類型4〕建設現場、工場内などにおいて、車両の前後・左右・上下などで作業を行う場合に、労働者として車両の動静に注意する義務があるとして過失相殺される場合
〔類型5〕工場や現場作業では危険防止の観点から周囲の状況に気を配って行動すべきが当然なのに労働者が簡単、かつ基本的な危険発生要因についての危険の“予知”“注意”を欠いたために被災として過失相殺される場合
〔類型6〕潜水作業や航空飛行訓練といった極めて危険性の高い作業等において、労働者が注意義務違反をしたために自ら被災したとして過失相殺される場合
〔類型7〕引火・火災等のおそれの高い危険な個所で、労働者が作業常識に反するような注意義務違反をしたために自ら被災したとして過失相殺される場合
〔類型8〕同僚の不注意な行為による被災事故であるが、被災者本人にもその被災原因につき過失がある場合
〔類型9〕労働者が防じんマスクや防毒マスク等を着用しなかったために自ら被災した事案に対し、労働者自身の“自己保健義務違反”として過失相殺される場合

〈30%程度の過失相殺〉
〔類型1〕保安帽の未着用、安全帯の不使用等保護具の不使用により、労働者が自ら被災した事案についての保護具使用の自己安全義務違反の場合
〔類型2〕労働者が作業中、車両系建設機械の旋回範囲内に立ち入ったり、オペレーターの自らが操作ミスや車両との接触、衝突等の回避など注意を怠って、被災した場合
〔類型3〕自動車などの車両に近接する誘導・積み降ろし等の作業における労働者の不注意による被災の場合
〔類型4〕労働者が、機械の点検、修理などの作業を行うに当たって、機械等を停止して行わなかったため自ら被災した場合
〔類型5〕感電災害について、被災者は安全教育等を受けて感電防止に関する知識があったにもかかわらず、軽率で不注意な行動をとり自ら被災した場合
〔類型6〕危険な作業や場所でありながら、被災者自身も危険な行為や不安定な姿勢で作業を行い、または周囲に注意を払わず軽率な行為により自ら被災した場合
〔類型7〕使用者側にも安全上の義務違反はあるが、世話役や作業主任者、責任者的立場であって自ら安全を確認し、危険を防止して作業をなすべき立場にいながら、これを怠って被災した場合
〔類型8〕注文者等第三者の施設などに赴いて作業を行っていたケースにおいて、注文先の施設関連による事故で、被災者にも作業手順に反したり、禁止行為を行ったり、軽率な不注意行為があった場合
〔類型9〕第三者による加害事故について使用者側にも安全管理の不備があるが、被災者本人にも自己被災防止上の注意義務を怠った場合
〔類型10〕不法就労の外国人の不慣れ、意思疎通の不十分のため、操作ミスによる自己被災した場合
〔類型11〕疾病の発症、増悪、自殺について、使用者に安全配慮義務違反等があるが、被災者にも疾病の発症、増悪、自殺について自己保健義務違反や素因等過失相殺を類推すべき寄与率のある場合

〈40%程度の過失相殺〉
〔類型1〕プレス等特に危険な機械の操作や作業にあたって安全装置の不使用その他基本的な作業上の不安全行為があった場合
〔類型2〕労働者が立ち入り禁止などを無視して災害発生の危険個所に勝手に立ち入って被災した場合
〔類型3〕被災者が現場で車両やクレーン等の合図、誘導などに関与しながら、その動静に注意せず自己の安全を確保しなかったため被災した場合
〔類型4〕車両に関連する事故で、被災者が機械によるつり上げ、引き抜き作業などを行うに際し、自己の安全に対する注意義務を怠った場合や荷台の下で修理・整備中に、車止め、荷台の降下防止対策などを講じなかった作業中の労働者の不注意の場合
〔類型5〕現場や構内における車両の運転につき、運転者自身にも操作上の不注意があり、自己被災を招来した場合
〔類型6〕一見してきわめて危険な行為であるのに被災労働者が軽率、過信、不注意により自己の安全を確保しなかったため自己被災した場合
〔類型7〕被災労働者自身が知識・経験からその危険性を十分に理解しているのに、それに対応した自己の安全を守る措置が可能なのに安全操作、安全作業等をしなかったため自己被災した場合

〈50%程度の過失相殺〉
〔類型1〕労働者同士の業務に起因する喧嘩による被災事故につき、使用者に損害賠償義務があるとしても、被災者にも責任があるとして「喧嘩両成敗」で50%の過失相殺とされる場合
〔類型2〕トタン屋根、スレート屋根等からの踏み抜き等による墜落や高所作業における足場の確認懈怠・足場上や高所の足元への不注意、不安全作業、危険行為等による墜落被災事故の場合
〔類型3〕高所作業でありながら日頃の使用者の注意に反して命綱の使用等墜落防止のための措置をとらないで死亡等の被災を招いた場合
〔類型4〕従業員が昇降や移動等にあたって足元が高所で滑りやすい等、危険であることを熟知しながら、労働者自身が足元への当然の注意を怠った場合
〔類型5〕プレス機、ロール機その他高度の危険のある機械作業や明らかに危険業務であることを十分知りながら、労働者自身が安全な作業方法や通常要求される注意を払わなかった場合
〔類型6〕ショベルカー、ダンプカー、クレーン車などの作業用自動車の運行に関連して、労働者自身が安全行動をとらなければならないのに、その危険を軽視した軽率な行動をとった関係労働者の自己被災の場合
〔類型7〕電気関係や火薬関係等きわめて危険性の高度な業務に経験者として従事しながら安全な作業方法を本人の不注意でとらなかったため自己被災した場合
〔類型8〕ガス中毒、窒息などの危険があるのに、労働者がその防護を怠り、注意を欠き、軽率な行動等で自己被災した場合
〔類型9〕いわゆる過労死、過労自殺の場合で労働者に受診治療や自己健康管理を怠るなどの自己保健違反や特別の素因のある場合

〈60%~66%の過失相殺〉
〔類型1〕プレス機・ロール機の作業等危険性の高い作業に従事する労働者の軽率で明白な危険行為により被災した場合
〔類型2〕クレーン、フォークリフト等を利用する積み下ろし作業で、運転者等が当然なすべき共同作業上の相互の監視・確認を怠って被災した場合
〔類型3〕施設、設備や提供した機械器具等に瑕疵があったが、それを使用・利用する労働者側にも明白な危険な作業で被災が予見できたにもかかわらず、注意を払わない重大な過失があった場合
〔類型4〕高所作業、有毒ガス発生などの明らかに危険な業務において、危険性を予見しながら被災者が安全帯・保護具などを着用せず、きわめて軽率な態度で作業や行動をしたため被災した場合
〔類型5〕労働者の地位、職務内容、経験などからみて明らかに危険であることが明白な業務や作業について、事故回避が十分に期待できるのに軽率な不安全行動をとって自ら被災した場合
〔類型6〕脳梗塞等の業務起因の疾病につき、使用者側に安全配慮義務違反があるが、本人側にも異常の基礎疾病や生活習慣上の寄与があり、その上要治療とされながら本人自身が受診、治療を受けなかった過失のある場合

〈70%~75%の過失相殺〉
〔類型1〕プレス、成型作業など明らかな重大災害を発生する危険な作業状況なのに、通常必要とされる作業上の注意を全く欠いて軽率な行動をとり被災した場合
〔類型2〕誰が見ても危険が明白な環境下において、禁止や注意を無視し自らの意思で危ない方法や危ない状況であえて積極的に不安全な作業を行って被災した場合
〔類型3〕車両系建設機械などの組立・修理・点検等に伴う作業者が、安全ピンを確認しないでブームの下に入る等一見して危険作業なのに明白な安全確認をしなかったことにより自己被災した場合
〔類型4〕運転者の積み込み、荷下ろし、その他、運送関連作業における明らかに危険性が高いのに、一挙手的な防止で足りるのにこれを怠って自己被災した場合
〔類型5〕被災者が使用者の指示に反して命綱を使用せず、危険を知りながらあえて高所で不安全行為をして被災した場合

〈80%~85%の過失相殺〉
〔類型1〕危険が明白重大な場所等であるにもかかわらず労働者自身がきわめて軽率な危険発生行為をして被災した場合
〔類型2〕明らかに被災者自ら重大災害の危険のある行為を故意的かつ軽率な状況で行って被災した場合
〔類型3〕車両の荷台から建設車両を降ろす際、危険が予測されるのに飛び乗る等極めて危険な行為を軽率に行った場合
〔類型4〕高血圧症による脳内出血、うつ病による自殺、頸肩腕症候群等についての安全配慮義務に関し、本人の私生活上等の要因や内面的な原因の寄与が重大な場合

カテゴリー