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高齢者雇用の議論に「生活者」の視点を

武蔵大学 客員教授 北浦正行

少子高齢化への対応が我が国の最重要課題の一つであることは今更いうまでもない。総理を議長とする「未来投資会議」で、高齢者雇用についての議論が始まった。継続雇用年齢の上限を65歳から70歳まで引き上げるべく高齢者雇用安定法の改正も視野に入れているという。一部に経過措置も残っているが、希望すれば65歳まで働き続けることは現行法でも義務化されている。しかし、70歳以上まで働ける企業は22.6%あるが、希望者全員が66歳以上まで働ける継続雇用制度を導入している企業となればわずか5.7%にすぎない。
(厚生労働省「平成29年 高年齢者の雇用状況」)
労働力不足が深刻化していく中では、高齢者の活用を図るため雇用年齢の上限を引き上げることは自然の流れだ。既にその先駆けとして雇用保険の65歳以上への適用が実施されている。もちろん働く者にとっても、長寿化の中で仕事を通じた社会的な活躍の場を広げることは、生きがいを高め生涯の充実したキャリア形成を促すという意味を持つ。
ただ、問題は、「未来投資会議」という場で、経済政策的な視点が強い中で行われることだ。しかも、会議のメンバーには労組の代表は一人も入っていない。「労使協議会」という下部組織が作られ、そこには連合の神津会長が入ったが、たった一人である。先の「働き方改革」のときもそうであったが、本来ならば労使関係の当事者間の中で大いに議論してもらいたいものが、経済の論理だけで進んでしまうことが心配である。
未来投資会議の討論ペーパーでは、今回の議論は生産性向上のための「サプライサイドを抜本的に強化するための改革」として位置づけ、高齢者の働く場の確保という課題は「全世代型社会保障への改革」というテーマの中に置かれている。とはいえ、肝心の社会保障は次の段階での議論になるといい、その内容がはっきりしない。そうした中で「生涯現役社会の実現」という名目で高齢者雇用が先行ランナーで議論されるのは、次に年金受給開始年齢の引き上げが予定されているからだという意見も聞かれる。
同時に、中途採用の拡大と新卒一括採用の見直し、転職・再就職などの労働移動の円滑化などの課題も示されており、入口や中途での雇用の流動性を高め日本的雇用慣行を見直すことへの意欲も強く出されている。そうだとすれば、出口である企業の雇用の上限年齢の延長だけに特化することとは些か整合性も欠くのではないか。
かつては60歳代になだらかに引退するというのが高齢者雇用の特徴であった。現在では、長寿化の中で少し変わってきたようだが、個人の様々な事情によって違いが大きいことは間違いない。多様な働き方をどう考えるかという議論もテーマにはなっているが、こうした高齢者の生活事情や(ライフキャリアも含めた)キャリア形成をどう考えるかという点を忘れてはならない。その意味では、社会保障の姿も同時に議論していきながら、「生活者」の視点を欠かさずに議論を進めてほしいと思う。