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また関心が高まってきたセクハラ問題

武蔵大学 客員教授 北浦 正行

 ハラスメントの問題というと、最近ではパワハラに主な関心が集まって、セクハラはどちらかというともうだいぶその防止策が徹底してきた感があった。現に、都道府県労働局の総合労働相談コーナーにおけるセクハラの相談件数もこのところ減っている。男女雇用機会均等法に関する相談件数のうちセクハラに関するものは平成26年度には11289件あったものが平成28年度には7526件と大きく減っている。もっともこれには、マタハラ(妊娠・出産に関するハラスメント)の1411件が別建てになったこともあるが、それにしてもひとときより落ち着いてきたともいえよう。

しかし、現実はどうか。今回の財務省次官の問題や厚生労働省局長の問題など、マスコミによる霞ヶ関発のスクープは、このセクハラ問題への対応が水面下では決して十分ではないことを改めて知らされた。釈明をするたびに、「全体ではそんなことは言っていない」とか「男性だけならよかった」とか、ますます女性に対する意識の拙劣さを披瀝してしまう。労働局に持ち込まれた相談案件の多くも、セクハラだと社内で問題化し、それへの対応のまずさ、というよりも隠されていたような古い意識の発露が却って問題をこじらせているようなケースが多いと聞く。

 つまり、法の施行や政府のキャンペーンで、表面的にはセクハラへの認識はかなり浸透してきたはずである。とりわけパワハラと違って「性的な」言動をメルクマールにするから、企業も対処しやすい。しかし、二人だけの関係になったり、会社の外へ出てしまったりすると、押さえ込まれていた意識が出てしまうのだろう。よく、セクハラは第三者(例えば相手の親とか会社の眼など)があると抑制されるものだと言われる。箍が外れると、本音の行動に走りがちになるのだろう。

 もう一つの問題であるパワハラ問題も女子レスリングや相撲界などが話題になるなど、世間の関心を集めている。重要なことは、パワハラとセクハラとは無縁ではないことだ。むしろ、パワハラの起きやすい職場ほどセクハラ問題と複合した事件が起きる可能性も高いと言える。今回の財務省問題のように、現にセクハラの相談では、「対価型」と言われているが、具体的な報償まではなくとも一定の地位関係に乗って相手に強要するケースも少なくない。

 いずれにしても、(官僚組織はまだその典型であるが)上下関係の指揮命令系統が強い職場はハラスメントが起きやすいのではないか。官邸主導と言われ、何でもトップダウンの職場は、統制の強さと意思決定のスピードは増すだろうが、ボトム層の人権意識を希薄にしたのではないだろうか。ハラスメントは、企業内のコミュニケーション不全の問題であると同時に、組織内における人権問題という視点が必要だ。官界に限らず、民間企業でもこうした企業風土の変化がハラスメントとどう関わるかを考える一石を投じているとと解したい。