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海外人材受け入れ拡大には日本語教育者をもっと送り出さないと

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 11月下旬から1週間ほどベトナムを訪れる機会を得ました。これで8回目となる訪越ですが、今回はILO-JAPANの後援を受けた労働ペンクラブのベトナム訪問団の一員として、見聞を少し広めることができました。
 筆者の今回の訪越の主な目的は、ベトナムという国の急速な変貌を自分の眼で見ておくこと、特に最近日本における外国人労働者としての数が激増し、外国人留学生の数で中国からの留学生数を抜いて昨年トップになる勢いにあること、技能実習生としても昨年10月末時点でベトナム人実習生数は対前年同期比で56.4%も増加していると報道されていることを念頭に、その送り出し側の状況の知見を得ることでした。

 ベトナム側の送り出し機関として、一つには技能実習生に関連するところ、もう一つは日本の大学への留学をプログラムとしているベトナムの大学を訪問しているところを訪ねることができました。
 技能実習制度については、ILOやアメリカ国務省からの批判もあり、今年の11月から新たな技能実習法の施行により、基本理念を再確認し、従来以上に厳しい技能実習計画の認定及び監理団体の許可の制度による運用が開始されたところですが、その送り出しのための研修を、日本の「アイム・ジャパン(公益財団法人 国際人材育成機構)」のサポートによって実施している訓練機関を訪問しました。
 見学することができたのは、日本の建設業の協力会の支援を受けた建設現業の技能訓練でしたが、語学教育だけでなく、労働災害防止教育も実施しており、一見安心できるように見えました。ただ、漏れ聞いたところでは、このアイム・ジャパンのサポートを受けた実習生の日本への送り出し数は、ベトナムから日本への技能実習生総数の3%にしか過ぎず、残りの97%の状況についての質問には明確な回答は得られませんでした。

 間違いのない日本での外国人労働者の受け入れは、経済連携協定(EPA)による外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れ(日本では国際厚生事業団/JICWELSが唯一の受入れ調整機関として機能しており、これ以外の職業紹介事業者や労働者派遣事業者に外国人候補者のあっせんを依頼することはできない。)ではないかという意見も外交筋から聞きました。確かにベトナムからの看護師・介護福祉士候補者の受入れについては、以前から実施していたインドネシア、フィリピンからの受け入れの教訓を活かし、訪日前の母国内での日本語研修の充実や、訪日前に日本語能力試験N3(日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができるレベル)合格以上を条件とする等の新施策を講じているからか、来日した候補者の評判は概ね良好で、余り悪い話は聞きません。
 しかしこの制度によるEPA看護師候補者数はすべての国からの数で平成25年度入国者112名(内合格者数40)、26年度98名(内合格者数36)、27年度155名(内合格者数34)で合格率は4割弱、介護福祉士の合格者数も平成22年度入国者で86名、23年度65名、24年度81名と、合格率6割以上でありますが、仕組みは素晴らしくとも絶対数は日本の国内需要にはとても追いつく規模ではないことは明らかです。(もっとも、そもそも国際厚生事業団の目的は、発展途上国の人材育成、両国の保健医療及び福祉の発展に寄与することであり、単に日本の労働力不足を補うためではないとされています。)

 また日本の名古屋工業大学、長岡技術科学大学、三重大学、和歌山大学、岐阜大学、豊橋技術科学大学、北見工業大学、群馬大学との交換留学を推進しているハノイ工科大学を訪問しましたが、日本からの学生ボランティアの方とも話をすること、日本語の授業を見学することができました。
 推測では、この大学に入学できるだけで、頭脳もお金もベトナムでは相当に恵まれた層ではないかと思われるので、日本からの奨学金やネイティブ日本語教師などをもっと充実させることも必要ではないかという印象でした。

 特に強く感じたのは、日本語教育をもっと少人数で密度濃く実現できれば、そもそも親日国(ベトナムでは「敬日国」という表現も聞きました。)のベトナムの人材に、日本でもベトナムでも活躍してもらう未来が開けるのではないか、ということです。
 第二次世界大戦終了後、「国民間の相互理解こそが決定的な亀裂を防ぐ」という信念で、敗戦国である日本からも留学生を招致したアメリカのフルブライト・プログラムでは、2012年までの60年間で日本人は6,300人学んだとされ、戦後の英語堪能者の育成をしたと言われています。また高校生を対象にしたAFS(American Field Service/国際教育交流団体)も国際交流に貢献しています。親米派とは言えなくとも、知米派を育てたことは間違いないでしょう。
 同様に、日本語を話せる海外人材をもっと育てることも必要ではないかと痛感したわけですが、日本語教師になる資格は、420時間もの講座を受けることが必要とされています。それこそホワイトカラー高齢者で健康な方にこの講習を(受講後各国で一定期間日本語教育に従事することを条件として)無償若しくは低額で受けてもらい、各国に派遣することが出来たら、知日派の海外人材をもっとはぐくむことができるのではないでしょうか。

 帰国直後にTVのスイッチを入れたら、「クローズアップ現代」という番組で「追いつめられる留学生~ベトナム人犯罪“急増”の裏側で~」という特集を放映していました。本来の留学ではなく、アルバイト目的の海外からの学生受入れによる利益追求が主眼ではないかという日本での大学や語学学校の動きも耳にします。「悪いベトナム人と悪い日本人が組んで、純朴なベトナム人をだましている構造ではないか。」という指摘も聞きます。
 即戦力とか、安い労働力ということではなく、「日本を知ってもらう」こと、その為に日本に来る前に日本語力をつけ、日本のアニメやTVドラマを通じて理解を深めた上で来日してもらえば、だまされることなく適切な相談先を持って「日本語もできる国際人材」「日本の社会をよく知っている国際人材」としてはばたいてもらえるのではないかという思いを強く持ったベトナム訪問でした。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)