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新しい技能実習制度のスタート

公益財団法人日本生産性本部 参与 北浦 正行

 厚生労働省と法務省が共管する技能実習法が11月1日から施行された。国会で何回か継続審議になり、ようやく実施の段階にこぎつけたが、まだ課題は多そうだ。技能実習制度については、本格的な外国人労働力導入の代替措置のように受け止められる論調も多い。実習実施機関では、労使協定を超えた残業、割増賃金の不払い、危険や健康障害を防止する措置の未実施などの労働基準関係法令に違反する事例が依然として多いという。

 このため、この法律は、正しくは「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」と呼ぶように、技能実習の監督強化をその本旨として制定された。もっとも、優良な監理団体・実習実施者には、最大5年間の在留が認められるよう「第3号資格」が創設されたことは周知のとおりであり、労働力確保に対する一定の効果も期待されているのも事実だ。

 その監視機能の中核を担うのが外国人技能実習機構であるが、その大きなは監理団体を許可制としてコントロールすることにある。また、実習期間となる受け入れ先企業等は、新たに技能実習計画の認定を受けることも必要になった。

 このように、新しい技能実習制度は、労働基準法等の適用を受ける「労働」であることを徹底するとともに、本来の趣旨である技能移転の実効が図られるよう、教育研修の場としての機能をより明確化にした点に大きな意義があるといえよう。そのため、審査も厳しく、また要員も不足がちで、認定等の作業の進捗にも遅れが目立つと言われている。このため、第3号への移行も含めて新法での施策が具体化するのは、一斉スタートでなく段々に進むような形になりそうだが、関係者の期待は大きいようだ。

 大事なことは、技能実習生が我が国に滞在中に、どれだけのことを学んで帰国するかどうかである。もちろん、実習生自体の意欲や能力にも依存するし、自己責任の問題でもあろう。しかし、入国時の講習だけでなく、中途段階での技能評価試験に合格できるための学習支援は不可欠だ。とりわけ、第3号に移行できるためには、国の技能検定試験で言えば、3級レベルの技能が求められるが、これは初任レベルでの新規採用者の水準にも相当する。今回から技能実習の対象に追加された介護職種では、加えて一定水準の日本語能力の習得も必須となっている。併せて、指導員の教育やサポートも大事な点だ。

 入国時を除けば、こうした学習はOJTを中心にして行うことになる。そのため、指導者の力量や職場環境、更には関係者の支援が重要になろう。このため、介護職種では職場で学習できるように、標準テキストが作成されているが、他の業種でもこうした教材整備や学習のサポートの体制づくりについて、できれば地域や業界レベルなどでの取り組みが必要ではないかと思う。

 また、作業に必要な直接的な知識・スキルだけでなく、組織で働くなかでのコミュニケーションや業務のマネジメントなどの基礎力を高めることも実習生には喜ばれるはずである。技能実習制度の狙いは対象となる職種の技術的な知識・スキル習得だが、組織でどのように働くか(あるいは働かせるか)ということも重要な実践能力にほかならない。技能実習生が総合的に学習して帰国することで、この制度に対する評価も変わってこよう。