インフォメーション

労働あ・ら・かると

気になる言葉遣い その2 「脱時間給という呼び方」

公益財団法人日本生産性本部 参与 北浦 正行

 働き方改革は、実行段階に向けたラウンドに入ったが、突然の解散総選挙で、焦点となった労働基準法改正等の一括法案は先行き不透明な状況にある。とはいえ長時間労働の是正に向けた政府の取り組みは活発になっているが、他方で現行制度内でも労働時間の弾力化を図ろうという企業の動きも見られる。

 言うまでもなく、労働基準法改正案で労使間の最大の争点となったのは、高度プロフェッショナル制度(高プロ)だ。この高プロは、労働基準法の労働時間等の規定を適用除外するだけに、残業ゼロ法案だと労働側の反対は強い。そのため、脱時間給制度と呼ばれることになったが、はてその言い方はどうだろうか。

 たしかに、高度な判断や企画立案を行うホワイトカラーについては、労働時間と仕事の成果との関係性が弱くなる。しかし、この言い方だと、今までの賃金は殆ど労働時間だけで算定され、仕事の成果とは無縁だったような誤解も与えかねない。およそ仕事の成果と無縁な賃金はあり得ない。能力給、業績給といっても、実際にはそれらが混合した総合決定の形が多くなっている。仕事の性格に応じて、それぞれに適合的な賃金決定が行われているのだ。製造現場の仕事でも、生産量が成果であるから時間との関係性は強いし、営業・販売でも活動時間は成果に結びつく。

 要は、「時間」が問題なのではなく、賃金の決定方式の問題だ。米国のホワイトカラーエグゼンプションも、時間を賃金の計算単位としないということであって、年俸制などに移行させることが主眼になっている。もちろん、労働基準法制のありようが違うから単純な比較はできないが、わが国でも年俸制的な支払い方が想定されていることは間違いない。

 また、時間はこうした賃金の算定基礎だけで意味があるのでなく、そもそも労働者の健康維持という目的から規制されていることも忘れてはならない。労働者が自らの裁量で働くからよいのだといっても、雇用関係という枠組みの中では無制限に働かせる訳には行かないのは当然だ。実働時間の把握や休暇取得など適切な健康保持の取り組みは不可欠になる。

 つまり、働き方が「時間」と無縁になるのではなく、1時間とか1日といった単位でなく、より長い時間単位の中で成果を見るようになったと考えるべきだろう。したがって、時間の使い方や効率的な仕事の仕方も、よりロングスパンで対応する必要があり、賃金制度も自ずとそれに合ったものに変えていくことになる。

 その意味で、これまでも導入されてきた成果主義賃金や支払い形式としての年俸制のあり方を改めて議論する必要があろう。ただし、その場合、賃金には、生活資金という側面や重要なモチベーションの要素であることなど、「労働者にとっての『賃金』の意味」についても忘れてはならないと思う。