当コーナーでは、専門家による労働政策、労働経済情勢等に関するレポートを、随時紹介させていただいております。専門家の方々の明快な主張、独自の切り口による鋭い論評等が満載のレポートとなっています。ぜひ、ご覧になって下さい。
今月のテーマ(2011年11月)
春闘などやっているときか。今こそ春闘で低成長とデフレ脱却か
いま、世界経済は、混迷の度を一層深めている。アメリカは財政赤字が増大し、国債の格下げ、高い失業率、その中で経済格差の拡大を招き、一方、EUはギリシャをはじめとして金融危機・不安が高まっている。
日本も例外ではない。未曾有の東日本大震災と津波、福島第一原発事故とその後遺症に翻弄される日本経済。長きにわたる低成長とデフレから脱却できず喘いでいるのが今日の姿である。
その間、非正規労働者の比率は高まり、所得格差は拡大、財政難と社会保障の負担増など先行き不透明感が漂う。とりわけ、欧州発の経済危機は、歴史的な円高をもたらし、企業活動を制約、企業業績に大きな打撃を与えている。
まさに、内外ともに経営をめぐる環境は、厳しさを増大させている中、11月1〜2の両日、連合が「2012春季生活闘争中央討論集会」を開き、早くも、2012春闘に向け、気勢を挙げた。これらの声を集約して、連合は12月1日、中央委員会を開き、「2012春闘の闘争方針」を正式に決めるという。
連合は、2012春闘で何を目指そうというのか。労使ともに、“厳しい”が合い言葉になっている中で、果たして春闘が機能するのか。それとも、今だからこそ、春闘を繰り広げることで、低成長とデフレから脱却できるといえるのか。そこには、どのような知恵と行動を準備し、未来を拓こうというのか。
それにしても、アメリカの財政危機、欧州の金融危機、さらに円高が加わり、そうでなくとも停滞気味の日本経済は、今以上に冷え込むことが十分想定される。しかも、円高は輸出産業を中心に日本経済の体力をじわじわと奪ってしまいかねない状況にある。
では、連合は、2012春闘で、どのような戦略を描こうというのか。その主張は、次のようだ。「日本経済が低迷している大きな要因は、コスト削減に偏重した経営側の総額人件費抑制の結果、配分が歪められ、労働者への配分が遅れ、内需の縮小をもたらしたためだ」とする。そして「春闘で適正な配分を求め、格差是正、底上げ、底支え(分)を確保し、(経営側、労働者側の)閉塞感を打破し、活力ある安心社会の確立を目指す」との姿勢だ。
連合の主張する「適正な配分」とは、「すべての労働者の処遇改善に向け、マクロの視点から、すべての労組が1%を目安に賃金を含め、適正な配分を求めること」にある。2011春闘に続いて、2012春闘でも1%の確保を掲げるが、1%分が適正な配分か否かについては、議論のあるところだろう。
連合春闘では、「すべての労働者の処遇改善」を掲げて3年目になる。中小やパートタイマーなど非正規労働者を含め、労組に組織されていない働く仲間の処遇改善を最重視した取り組みを展開したはずである。主張の中でも、正社員の賃上げはガマンして、パートタイマーなど非正規労働者、あるいは中小・下請企業に働く仲間に賃金原資を振り向けようなど低賃金層へのアプローチを掲げたものの、現実は、格差は広がっている。これでは何のための“すべての労働者”なのか。
連合のいう“経営側の姿勢”=「賃金をコストとしかみない労働コスト削減中心の成長プロセス」を改め、雇用と労働条件を長期的に安定させ、人への投資を行い、『人財』を育てあげることが重要だとし、適正な配分によって、消費を拡大し、内需主導へと導く好循環につなげなければならないとする。
確かに、所得が伸び悩む中、内需の低迷が続いているのも事実。そうであれば、連合が主張する適正な配分交渉を中心とした春闘の展開で、日本経済を早期に持続的・安定成長に回帰させる道筋が見出せるというのか。
日本経済を持続的・安定的に成長させる構図は、誰もが期待しているものであり、異存はない。問題は、誰が、どの組織なり、トップリーダーなりが、具体的に動き、見識を披露し、汗を流すかにある。ここは、労使が真剣な春の討議(春討)を経て、グランドデザインを描き、日本発の経済再生への羅針盤となる答案(春答)を如何に書き上げるかに掛かっている。
八方ふさがりの日本経済を、果たして春闘での配分交渉で生き返らせることができるのか。そんな生易しいものではない。だが、ここは、5年プランなり、10年プランで低成長とデフレからの脱却に向けた労使の熱い論戦と方向性を打ち出す責務が、2012春闘では問われていると言える。
春闘は過去のもの、あるいは討議の場にしようといった姿勢では、労使で日本発の経済再生策の発信は不可能だ。まずは、労使の共通認識がどこまで深められるか。難題だ。だが、今日を生きる労使に求められるのは、世界も日本も厳しい経営環境にあるだけに、広く意見を闘わせ、見識ある答案づくりができるか否かにある。
攻める労働側の連合は、11月初めの春闘中央討論集会を経て、12月1日の中央委員会で2012春闘に向けた闘争方針を確認、12月末にも「連合白書」を発表し、理論付けをする。
一方、経団連は2012年に入って1月中旬にも経営側の指針となる「経営労働政策委員会報告」を発表するだろうが、これまでの上滑りした労使の空中戦とも言える論戦から、地道ではあっても、企業人としての使命、働く人たち、庶民の心の琴線に触れるような方向を目指し、労使が熱い論戦を交わすことが今ほど求められている時はないであろう。
そこで労使双方に問いたい。それぞれの主張を述べるだけ、聞く耳を持たないようでは、責任放棄である。まずは、謙虚に双方の主張に耳を傾け、質すところは質し、如何に理解を深め得るか、日本経済をどう転換させ得るのかを国民の前に問うべきであろう。合格点の取れる春闘・春討・春答を展開してこそ、労使の存在感が認められるのだ。
日本の財産は何か。それは人間力(人財)であり、現場の技術力であり、良き労使関係である。中でも雇用の安定・確保は第一優先課題である。不安定雇用、貧困社会が蔓延るのは、労使の雇用軽視、無責任体制にあると言っても過言ではない。雇用とその安定こそ重視すべきものだ。その上で、適正な配分論議を闘わせてほしいものだ。
歴史に残る春闘論戦を期待するばかりである。
【飯田康夫 労働ジャーナリスト 日本労働ペンクラブ前代表】
