労働あ・ら・かると

 当コーナーでは、専門家による労働政策、労働経済情勢等に関するレポートを、随時紹介させていただいております。専門家の方々の明快な主張、独自の切り口による鋭い論評等が満載のレポートとなっています。ぜひ、ご覧になって下さい。

今月のテーマ(2011年10月 その4)

旧海軍造船所の安全第一「安全は…国守る」

 佐賀県の北西、長崎県との県境には多くの入り江があり、その中でも、鎖国中の江戸時代から密かに有田焼を世界に輸出し、「古伊万里」の母港となった伊万里湾は、秘密の国際港らしく急峻な山肌に守られて攻めるに難い天然の要害となっています。そのため、太平洋戦争時には旧海軍の造船所が設けられ、終戦間近には、特攻兵器である人間魚雷も多数建造されていたそうです。

工場

 戦後、この工場は長く放置されて、今や蔦の生い茂る廃墟となっていますが、軍需工場らしく頑丈に作られた鉄筋コンクリートの柱や床の構造が、今にいたるもそのまま残されてきました。

 しかし、流石にその頑丈な構造も、戦後60年余を経て、危険なものとなってきたらしく、今後解体されるということが新聞に報道されました。

 解体されるということが、主たる内容の記事でしたが、「守る安全、見交わす笑顔」などの安全標語が工場内に残されているというのです。

 佐賀県は私の故郷です。そこで、帰省の折に、この工場を訪問してみました。
すると、報道のとおりでした。

 柱のそこここに、「かがさぬ点検、必ず安全」「災害は心の隙から、手落ちから」「生産は一に安全、二に健康」など等の標語が10種類も、白く塗られたペンキの下地に、毛筆の文字で書かれているのです。

 ここは、旧海軍の軍需工場です。当然のことながら、旧海軍の厳重な管理のもとにあった場所です。箸の上げ下ろしまで、海軍軍人たちの統制のもとにあったでしょう。その工場が、「お国のためにがんばろう」などの戦意高揚の言葉ではなく、『生産は一に安全、二に健康』などとする標語の下に、稼動していたのです。

 しかも、最も目立つ工場の中心の柱に、

 「安全はあなたを守る、国守る」

 という言葉が掲げられていました。

安全はあなたを守る、国守る 

 迫る連合軍の本土上陸を迎え撃つため、兵器を必死の思いで増産しようとしている海軍の軍事工場が、まず「働くあなた方の安全を守ってくれ」、それが「われらの祖国を守ることなんだ」と宣言し、かつ、働く人々に、そのように呼びかけているのです。

 正直に申しあげると、私は時として、生産のためには、安全にとって問題のある作業もある程度はやむを得ないのではないか、と考える時があります。

 然し、それは間違いで、安全を守ることが生産を守ることで、それが会社を守ることなのだ、国をまもることなのだと、この旧海軍の軍需工場が教えてくれているようでした。

 今年は「安全第一」という標語が日本に導入されて、ちょうど100年目になります。この記念すべき年に、当工場の安全標語は、今後も伊万里市当局によって記念館等で保存されると聞いています。

 大変素晴しい事のように思えます。

【労働問題コンサルタント 東内一明】