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今月のテーマ(2009年8月)
企業の人材雇用責任 その1 採用時の説明責任
「派遣切り」批判と同時に「企業の雇用責任」を問う論調も目立つ昨今です。
もちろん働く立場からの目の前の雇用維持を求める声を否定するつもりはありませんが、もう少し中長期的な視点で、「企業の雇用責任とは何か」「人材はどのような責任感(義務感)をもって働く必要があるのか」ということを何回かにわたって述べたいと思います。
先日、紹介業を利用して人材を採用したと言うある求人企業からこんな電話が入りました。
「紹介会社からの推薦で営業担当者を採用したが、思ったほど能力がないので解雇したいが、紹介会社に苦情を言ったら、『そんな解雇はできない』と脅かされた。高い金(紹介手数料)を支払ったのに、しょうがない人材を押し込んでおいて、紹介した人材の能力に責任を持たないのか。」と怒っていらっしゃいます。ひととおりお怒りの声を伺った後、「何回か面接をされた上で、採用をお決めになったのではないですか?」と私が言いますと、「それはそうだが、でも紹介会社の推薦もあって採用したのだから。推奨責任があるのではないか。紹介料も返してほしいし、クビにしたい。欠陥商品を売りつけられたのだから。」と言うのです。
はてさて、この会社の社長さんは人を雇うということをどう考えているのでしょうか。何のための面接や選考だととらえているのでしょうか。
職業紹介は人材派遣とは違って、労働契約の成立を斡旋するわけですから、人材会社自身が人材を雇うわけではないことが、この求人企業さんには分ってもらえないようです。
最後に人材を雇うのは求人企業です。いつも脇にたっているアドバイザーもしくは観察者として、その現場に立会うのが人材紹介の従事者です。
本件に関わった人材紹介会社からも事情を聴きますと、この求人企業は当初「いい人が欲しい。」という連絡があって、「どのような人材が貴社にとって『いい人』ですか?」「売上を上げてくれる人材が『いい人材』に決まっているじゃないか。」といったやり取りの後、紹介契約を結び、人材を紹介したそうです。
「受け取った求人票には、お仕事の内容はどう書かれていますか?」と質問したところ、「営業担当としか書いてない。」そうです。この紹介会社も、求人を受ける際の聞き込みが浅かったように思います。そんな求人票でよくマッチングができたものだと思いますが、「何しろ希望職種に営業希望と記載してある人材のデータを片っ端から送った。」様子です。これではお金を頂戴する職業紹介としては(ハローワークとすみ分けるためにも)、どのような付加価値を生んでいるのかという観点でいかがなものかとも思います。
しかし、何よりこの求人企業は「人を雇う」ということをどう考えているのだろうかという疑念がぬぐえません。もっと詳しく職務内容を求人票に記載し、さらに人材コンサルタントに十分な説明(何を期待するのか、成果を上げるために企業としてはどのような環境/研修を準備できるのか、など)をしておけばよかったと(後の祭りですが)思います。結果、紹介された人材は決して幸福とはいえない状況になってしまったわけです。
「求人票」には、法的な必須記載事項を書くことはもちろんですが、それ以上にその企業にとって『いい人材』を確保するためには、「その会社にとって『いい人材』とはどんな能力を持った人材か」を詳しく書く必要(書いてもらう必要)があります。
新卒採用を人材確保の軸としてきた企業には、能力云々より、真っ白な人材を採用して、自分の会社の色に染めて行くという意識構造があります。しかしこれからの人材採用では(少なくとも中途採用では)人を丸ごと抱え込んでいくという感覚ではなく、その人材が発揮してくれる技能や仕事、労働の成果が、企業にとってもプラス、本人にとってもプラスという表現ができない企業は、戦力となる人材を確保することは難しいと思います。
求人をする段階からの「企業の説明責任」を明確に意識している企業に人材を紹介すると、しばらくしてその人材の目が輝いている姿を見ることができると、今も昔も人材紹介会社の世界では言われることです。人材紹介会社側もその点を忘れず、職務内容をよく聞き出し、候補の人材の方もよく理解した上で転職すれば、これほど有意義な職業紹介はありません。
フィラデルフィア宣言を引くまでもなく「労働力は商品ではない」わけですし、「人を雇うこととモノを買うことは全く違う」訳ですから、求人企業には「人を雇う」ことの責任、「雇う前にどんな仕事をしてもらうかを説明する」責任を自覚して欲しいものです。
以前3月のこの欄で「便利なものは能力を削ぐ」と申し上げましたが、「便利な」人材派遣会社や人材紹介会社が、企業の雇用責任を感じる能力を削いだのではないかと思うのは、私の杞憂に過ぎなければよいのですが。
【岸 健二 (社)日本人材紹介事業協会(略称/人材協) 事務局長】
