労働あ・ら・かると

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今月のテーマ(2009年5月 その4)

「派遣と請負の区分基準」疑義応答集の何が問題か

 世界同時不況の中で、いわゆる「派遣切り」が大量に行われ、「派遣切り」に対する批判が高まっている。このため、メーカーでは製造のアウトソーシングの活用の仕方として、再び業務請負を活用しようという動きが強まっている。

 こうした中で、厚生労働省のホームページに、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する疑義応答集なるものが公表されている。

 これまで、不明確であるとされていた37号告示についてできる限り明確にしようとする姿勢は高く評価できる。しかし、今回の疑義応答集で示された労働者派遣事業(疑義応答集では「偽装請負」と表現されているが)の範囲が、明らかにこれまで行政から示されていた範囲よりも広がっているのである。

 これまで、労働者派遣事業の範囲を示したものとしては、告示37号のほか、労働者派遣事業業務取扱要領、また、いわばこれを補完できるものとして労働者供給事業業務取扱要領があった。

 それに示された範囲が労働者派遣事業(すなわち「偽装請負」)の範囲であったはずであった。ところが、疑義応答集では、これよりも広がっているのである。

 その範囲が広がった事項はいくつか指摘できるが、特に問題となるのは、「6. 中間ラインで作業をする場合の取扱」に関する「工場の中間ラインの一つを請け負っている場合で、一定期間において処理すべき業務の内容や量が予め決まっておらず、他の中間ラインの影響によって、請負事業主が作業する中間ラインの作業開始時間と終了時間が実質的に定まってしまう場合など、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っているとはみなせないときは、偽装請負と判断される」というくだりである。

 基本的な問題は、請負事業主の営業時間とその労働者の労働時間の違いが意識されていないことである。確かに、37号告示では「労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理を請負事業主が自ら行うこと」とされている。しかし、これは、あくまで、請負事業主が雇用する労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関するものであって、請負事業主の営業時間とは関係ないことである。

 もちろん、企業の営業時間が労働者の労働時間に影響することは事実であるが、概念的には別物であり、労働基準法で規制されているのも労働者の労働時間であって、営業時間ではないのである。まして、37号告示は労働者派遣の定義である「他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」についての解釈を示したものであるので、時間に関して触れるとすれば、それは労働者の労働時間に限られるべき性格のものであって、営業時間を指すことは不適切であると言わざるを得ない。

 たとえば、トヨタ方式と呼ばれる生産方式では、自前の工場を持った部品メーカーに対しても、在庫量を最小にするために営業の開始時間、終了時間の指示が行われているが、そのことが問題となるのであろうか、もし構外に自前の工場を持っている場合には問題がないとすれば、構内で業務請負を行う場合も同じなのではないだろうか。

 さらに、37号告示は製造業に限らず、全ての業種を対象とするものであるが、たとえば、建設業においては、総合建設業者(ゼネコン)が専門工事業者(サブコン)の行う作業を監理して行っているが、各サブコンの行う作業時間というのは、当然のことながら工事の進捗状況、すなわち、他のサブコンの作業の影響によって、その作業開始時間と終了時間が実質的に定まってしまうものである。そうなると、建設業一般に影響は波及するし、まして、建設業務については労働者派遣事業が原則禁止なのだから、こういう方法が取れないと事業自体が成り立たないことになってしまうのではなかろうか。

 もう1つ例をあげれば、デパートなどで店舗の1つの区画を請け負わせようとする場合に、その区画だけが営業の開始時間と終了時間を変更できるようにしなければならないのだろうか。それは、非現実的であると言わざるを得ないであろう。

 これらの例は、営業時間について事業主が自由に決められるものではないことを示している。そうであるとすれば、請負事業主の営業時間について解説したこのくだりは少なくとも労働者派遣法や37号告示の範囲を逸脱しているものと考えられる。

 だとすれば、せっかく準備し、公表したものではあるが、もう一度やり直すべきではなかろうか。

【木村大樹 国際産業労働調査研究センター代表】