労働あ・ら・かると

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今月のテーマ(2009年4月)

過労死や過労自殺の労災認定は、今のままでよいのか

 この数年の労働関係の裁判を見てみると、過労死や過労自殺の労災認定をめぐるものが再び増加しており、その数は驚くべき数となっている。

 厚生労働省においても、平成11年には「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」を、平成13年には「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」を示しているが、裁判所は、当然のことながら、これらの判断指針や基準に拘束されることはなく、せいぜい参考資料としている。さらに、「認定基準の認定要件に該当する場合には業務上に該当するとしながらも、認定基準の認定要件を満たさないからといって、業務上に当たらないとまで直ちに言えるものではなく、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等に照らして、更に総合的に判断する(札幌東労基署(北洋銀行)事件 札幌地裁 平成18年2月28日)」とするものや「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準は、業務の過重性判断の1つの指標となりえる(立川労基署長(東京海上火災保険)事件 東京地裁 平成15年10月22日)」とするものなどもある。

 このように、裁判所の判断と行政がその根拠としている判断指針や基準との間に乖離があり、かつ、労災認定が最終的に裁判所において判断されるものである以上、今後も数多くの労災認定訴訟が提起され、そのことに延々と時間を要するおそれがある。

 そのことは、「業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をする」ことを目的とする労災保険法の趣旨に合致しないことにつながる。延々と時間を要した結果労災認定がされるのであれば、迅速な保護をしたことにはならないからである。

 行政としても労災被災者に迅速な保護を図ろうとするのであれば、裁判などで、「業務上の事由による」と判断されたものは、著しく不合理なものでなければ、判断指針や基準に組み入れることが不可欠ではなかろうか。

 では、どのような違いがあるかといえば、これは労災認定全般についていえることだが、行政の判断指針や基準においては、業務上の事由と業務外の事由とを対比して実態を調査し、業務上の事由によることが決定的な要因である場合に限って、労災認定しているのに対し、裁判所の判断は、業務上の事由が何らかあり、かつ、業務外の事由が決定的な要因でないときは、「業務上の事由による」と判断していると思われる。

 このような判断の枠組みが違う以上、労災認定をめぐる訴訟は続かざるを得ないし、最終的には裁判所で認定されることになるため、単に訴訟のために費用や行政などの人員が割かれるだけとなり、空しい結果となるように思えてならない。

 過労死に関する最近の裁判結果を踏まえれば、例えば、「消防署の査察などによる精神的負荷の下において行われた作業が基礎疾患等の自然的経過を超えて心筋梗塞を発症させることがあること (立川労基署長(日本光研工業)事件 東京地裁 平成18年7月10日)」などを判断基準で明らかにするとか、労働時間の範囲についても、「創意くふう提案活動」や「QC(品質向上)サークル活動」などの小集団活動や「交通安全活動」を行う時間を労働時間とすること(豊田労基署長(トヨタ自動車)事件 名古屋地裁 平成19年11月30日)、自動車運転手については、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」も業務の過重性の判断基準とすること(岡山労基署長(東和タクシー)事件 広島高裁岡山支部 平成16年12月9日)、出張は精神的、肉体的に相当負担があること(厚木労基署長(アジア航測)事件 横浜地裁平成13年2月8日など)や振動、騒音、暑熱寒冷、時差などの作業環境の影響(成田労基署長(日本航空チーフパーサー)事件 東京高裁 平成18年11月22日など)を明確にすること、業務による脳・心臓疾患の発症、増悪等の予防を図るために使用者側が適切に対応しているか否かについても必要な評価を行うことなどが判断基準において示された方がよいように思われる。

 また、過労自殺に関する裁判においては、例えば、死亡前に相当の残業があり、長時間労働による睡眠不足状態にある場合には、業務と相当因果関係を認めているものが多いこと(真岡労基署長(関東リョーショク)事件 東京地裁 平成18年11月27日など)を踏まえれば、過労死の場合と同様に労働時間の長さの基準を設ける必要があるほか、責任ある地位に就いた場合(さいたま労基署長(日研化学)事件 さいたま地裁 平成18年11月29日など)や単身赴任の場合(八女労基署長(九州カネライト)事件 福岡地裁 平成18年4月12日)、海外赴任の場合(八王子労基署長(パシフィックコンサルタンツ)事件 東京地裁八王子支部 平成19年5月24日)、上司などの言動(奈良労基署長(日本ヘルス工業)事件 大阪地裁 平成19年11月12日など)などによる心理的負担から精神障害を発症させるおそれなどについて、判断指針において明確にした方がよいように思われる。

 このような裁判例なども踏まえて、平成21年の4月には、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」について、その枠組みを維持しながら、(1)判断指針における「職場における心理的負荷評価表」に係る具体的出来事について、@「違法行為を強要された」、A「自分の関係する仕事で多額の損失を出した」、B「顧客や取引先から無理な注文を受けた」、C「達成困難なノルマが課された」、D「研修、会議等の参加を強要された」、E「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」、F「上司が不在になることにより、その代行を任された」、G「早期退職制度の対象となった」、H「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」、I「同一事業場内での所属部署が統廃合された」、J「担当ではない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った」、K「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の12項目を追加し、それぞれの心理的負荷の強度を定めること、(2)「顧客とのトラブルがあった」を「顧客や取引先からクレームを受けた」に修正するなど7項目について修正を行うこと、(3)「心理的負荷の強度を修正する視点」や「出来事に伴う変化等を検討する視点」を見直すこと、(4)「職場以外の心理的負荷評価表」についても、「親が重い病気やケガをした」を追加すること、の改正が行われた。

 このような改正は歓迎すべきことであり、今後とも、労災認定において重要なことは、迅速かつ公正な処理であることを踏まえた行政の前向きな対応が強く求められる。

【木村大樹 国際産業労働調査研究センター代表】