当コーナーでは、専門家による労働政策、労働経済情勢等に関するレポートを、随時紹介させていただいております。専門家の方々の明快な主張、独自の切り口による鋭い論評等が満載のレポートとなっています。ぜひ、ご覧になって下さい。
今月のテーマ(2009年2月 その4)
労働者派遣事業の産業規模に応じた体制の整備を
例年のことではあるが、労働者派遣事業の平成19年度事業報告の集計結果が民営職業紹介事業報告とともに、発表された。
労働者派遣事業の売上高は近年毎年1兆円ずつ増加し、平成19年度には約6兆5千億円に達した。この額は、農業生産高約8兆3千億円の78%で、水産業水揚高約1兆6千億円の約4倍、林業生産高約4千億円の約15倍となり、第1次産業全体の生産高約10兆3千億円の約63%となっている。
就業者数でみれば、派遣労働者数は約384万人(常用換算では約177万人)で、農業就業人口約299万人(基幹的農業従事者197万人)、林業就業人口約4万7千人、水産業就業人口約20万4千人、第1次産業全体の就業人口約324万人と比べて、人数の数え方の如何にもよるが、これらを上回る規模となっている。
このように、労働者派遣事業は農業あるいは第1次産業に匹敵するような大きな産業となっているが、それにふさわしい位置づけが行われているのかといえば、はなはだ疑問と言わざるを得ない。たとえば、中央政府の行政組織でいえば、第1次産業は農林水産省という1つの省の大部分が担当しているのに対し、労働者派遣事業の方は厚生労働省職業安定局需給調整事業課という1つの課で、民営職業紹介事業(これでも3千億円近い手数料収入があり、約42万人を就職させている)や労働組合等の行う労働者供給事業、労働者の募集などとともに担当している。また、中央政府の予算の規模は平成20年度当初予算の農林水産関係予算は約2兆6千億円であるのに対し、同予算の「労働者派遣事業の適正な運営の確保」に関する予算は5億2千万円と5千分の1なのである。
さすがに、平成21年度予算案や20年度補正予算案では派遣切りなどの問題に対応するために大幅に増えているようだが、この農林水産関係予算と労働者派遣事業関係予算の違いはどのように考えたらよいのだろうか。
もちろん、農林水産省においては、食の安全・安心など全国民にかかわることを行っており、一概に比較することには無理があるであろうが、労働者派遣事業関係者が納める所得税や法人税などの額は、第1次産業関係者が納める所得税や法人税などの額と比較して、そう遜色のあるものではないであろう。だとすれば、行政組織や予算においても両者の均衡がもっと考慮されてしかるべきではないだろうか。
昨今、派遣切りなどということが言われるようになって、派遣労働者をめぐるさまざまな問題が指摘されるようになってきたが、行政組織が小さいということは、日頃行政の中で労働者派遣事業や派遣労働者のことを考え、対応する人たちが少ないことを意味し、政府の予算が少ないということは労働者派遣事業や派遣労働者の問題に対応できるための財政力が乏しいことを意味している。
筆者も、労働者派遣事業や派遣労働者の問題について、第1次産業関係並の行政組織や予算規模が必要であるとは考えていないが、これほど大きくなった労働者派遣事業について、それにふさわしいシステムを整備する必要がある。
このようなシステムの欠如が従来からあった偽装請負をはじめとするさまざまな問題の温床となっているような気がしてならない。
労働者派遣法という法律をきちんと時代の要請にあったものに改変することも重要であるが、これほど大きな産業で、多くの人がそこで働いているものについては、法律が1本あればよいというものではなく、それにふさわしい社会体制を構築していく必要があり、行政改革が言われる中ではあるが、減量化だけではなく、充実する必要がある分野もあることをあえて触れておきたいのである。
【木村大樹 国際産業労働調査研究センター代表】
