労働あ・ら・かると

 当コーナーでは、専門家による労働政策、労働経済情勢等に関するレポートを、随時紹介させていただいております。専門家の方々の明快な主張、独自の切り口による鋭い論評等が満載のレポートとなっています。ぜひ、ご覧になって下さい。

今月のテーマ(2009年1月 その3)

人材ビジネスの品格

 2年ほど前に「ハケンの品格」というテレビドラマが話題になりました。主人公は篠原涼子扮する派遣スタッフです。彼女は高度な専門技術や多彩な資格を持ち、仕事の遂行能力が極めて高い。しかし、残業は全くしない、昼食、夕食含めて仕事以外のつきあいも一切しないという方針を貫いています。あのドラマは「ホワイトカラー事務職や専門職は技能がないとダメだよ」という警鐘を鳴らしたようにも思えます。いろいろなオフィスで「派遣の人は優秀だ」とよく言われますが、それは技能を磨かないと仕事が回ってこないからでしょう。一方、正社員の方は定年まで雇用を約束されるという安心感(それも危うい昨今ですが)が人間の上昇意欲を削いでしまう一面が、一部の方々でしょうが見受けられます。しかし、派遣で働こうが、アルバイトで働こうが、定年までの契約であろうが、一生懸命働き、技能を磨くということを働く側が忘れたらダメなんじゃないかと思います。このドラマは、そうしたことを教えてくれたと思います。

 世の中は「派遣」が格差社会のすべての元凶だと言わんばかりの論調が目につきますが、少なくともあのドラマの登場人物のようなホワイトカラースペシャリストを派遣する人材ビジネスまでもが悪者扱いされるのだとしたら、とても悲しいことだと思います。

 一方で、「本当に雇用責任というものが解っているのだろうか?」と思える経営者もいることは事実です。「働きすぎは労働者にも責任がある」と放言した経済団体の役員もしている経営者が話題になりましたが、長い歴史の中で各国の労働法がどのようにでき上がってきたかを全く理解しないまま、そのような言葉を堂々とTVで放言する経営者が最近目につきます。企業と対等に交渉力のある労働者が、働く人びとの何パーセントいるのか。社長ですら株主から解任される時代です。すごくお金持ちでも貯金が減っていくことに耐えられないという人に会ったこともあります。人を雇おうとする雇用主も、職業紹介を行おうとする方々も、労働契約の特徴というものをもう一度考えていただければと思います。

 労働契約が、売買や貸借などの他の契約と一番違うところは、必ず片方が自然人(生身の人間)だということです。世の中の他の契約の多くは、法人と法人でも成立します。これに対して労働契約は「使う者と使われる者」です。企業と人材です。生身の人間であるとはどういうことか。それは感情や意志があるということです。そして変化します。能力は伸びるし、年をとれば減衰する。興味も移る。もちろん、企業だって景気の影響も受けるし、どんどん成長するときもあれば逆のときもあります。労働契約をあっせんするという職業紹介は、とても難しいものだと実感しています。転職のその瞬間に最高のベストマッチングだとしても、10年後もベストマッチだという保証はない。(もちろん転職しないで10年経ってベストマッチだという保証もないのですが。)

 とても理想的なケースは、雇用主の変化・伸長と人材の変化・成長が協調的、共鳴的な時だと思いますが、多くの場合「世の中はままならない」という台詞のほうが合ってしまう。優秀と言われる人材がたくさんいても、企業がダメになることもあるし、その逆に優良企業といわれる組織でも人材をつぶしてしまうことが無いわけではない。企業の成長と自分の成長曲線が一致すれば、そんな幸せはないと思うのですが、「しごと」「働くということ」を連続的に考える上で、その相互の変化をよく見据えることが大事だと思うのです。ですから職業紹介は、ただ今の瞬間に刹那的に転職を煽るだけでなく、転職しないリスクと転職するリスクを冷静に説明し、本人の意思を尊重しつつ多面的な情報の一つとして見解を述べ、コンサルティングすることがつくづく重要なのです。

 一方、規制緩和の副作用と断じることはできないと思いますが、嘆かわしいことがあります。私がこの業界に入った約20年前、民間の職業紹介会社の創業者や人材コンサルタントの方々の多くは、海外で人材紹介のノウハウを得て帰国した方や、元人事部長でした。この方たちというのは、雇うこと働くことの大変さ、あるいは解雇することされることの大変さを、良くも悪くもよく解って業界に入ってきていたと思います。また応分の報酬はもらうけれど、ぼろ儲けしようとは思っていなかった。社会的に大変有意義な仕事に、自分の過去の経験ノウハウが活かせ、従業員に給与を払い、自分の生活が維持できればいいと思っているように見えました。

 ところが、最近、協会に寄せられる相談のうち「手っ取り早く儲りそうだから、やってみようと思うのです」というものが増えました。これに対して、私は「大儲けはできません」と答えるのですが…。

 前回触れました“徳性”がなくても、許可されて人材ビジネスに参入してくる企業がでてきたように思います。

 これまでは良心のある人たちがこの業界で仕事をし、多くの人材が自分を生かせる仕事に就き、多くの求人企業が戦力となる人材を確保することができました。儲りそうだからといって、この業界に入ってきた人たちの今後には、あまり期待できそうもないというのが実感です。

【岸 健二 (社)日本人材紹介事業協会(略称/人材協) 事務局長】