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今月のテーマ(2008年12月)
人材ビジネスを考える
今回からこの「労働あ・ら・かると」に寄稿することになりました岸と申します。どうぞよろしくお願いいたします。20年以上民間の職業紹介事業とその業界団体に居りまして、転職の現場に立ち会い、また人材ビジネスという業界への行政指導を受ける立場や規制緩和の流れの中に身を置いてきた経験から、食い散らかしにならないよう注意しつつ、それこそ「アラカルト」にお話ししていきたいと思っています。
昨今は人材派遣事業に対する世間の風当たりには大変厳しいものがあり、ことは人材派遣に限らず、人材ビジネス全般に対しても指弾の論調がマスコミにも見られます。もちろん、業界側にも大いに反省すべき点が多々あると思いますが、大きな誤解もあるように思え、その底流には「人が仕事に就くことに介在して商売をすることはけしからん」という発想があるようにも思えてなりません。
昨今、ずっと続いてきた規制緩和の流れが一転し、規制強化が国会でも論議され、多方面から派遣業界に厳しい批判が寄せられています。このことについて、私は真摯に受け止めなくてはいけないと思っています。「人材紹介」と「人材派遣」は違いますが、派遣業界で起きていることは、「対岸の火事」ではありません。むしろ「他山の石」ととらえています。しかも、“他山”はかなり近いところにある山だと思っています。
労働者派遣法が成立したのは、1984年のことですが、それ以前は人材派遣業のことを「事務処理サービス業」と呼んでいました。すでに欧米では存在した「人材派遣業」というものを利用したいという外資系を中心とした企業のニーズに応える形で始まり、形式的には当時の労働法で原則禁止である「労働者供給」の例外的な仕組みとして、企業ニーズと法律の趣旨を整合するために、立法されたとも言えると思います。
その労働者派遣法が、「規制緩和」の波に乗り、また世界的な流れではILO96号条約から181号条約への移行という流れもあって、あれよあれよという間に1999年からは対象業務も「何でもあり」となり、業界全体が大きく変わったわけです。そのことは「専門的な事務処理を中心とした、企業に対する便利なサービスの仕組み」という当初の趣旨が、いつの間にか「企業が雇用主(あるいは派遣先として職場を管理し仕事を指示する立場)としての責任を逃れるための仕組み」に一部変貌してしまったように、あるいはそのような方の派遣業界への大量流入によって歴史ある良心的な人材派遣事業者が少数派になってしまったように、私には見えます。
人材紹介業界においてはどうでしょうか。言うまでもないかもしれませんが、戦後長い間は、「職業の斡旋については、国が行い、極めて限られた例外以外は民間が携わってはいけない」という時代で、公共職業安定所では扱いきれない、専門性が高い仕事だけを例外的に認めたのが「民間職業紹介」でした。看護家政人材やマネキン職種などが歴史の長い「民間職業紹介職種」だったわけですが、これも世の中の企業からの人材ニーズに応える形で徐々に扱うことのできる職種が拡大し、派遣制度同様に港湾や建設現業の仕事以外は何でも民間が取り扱うことができるようになりました。
しかしその規制緩和の流れの中で、かつては「職業紹介は『徳性』があるものが行う」と謳われていた(旧職業安定法第32条第2項)のですが、その徳性という言葉が1999年に法律条文から消えてしまいました。立法技術論からすれば「徳性」というあいまいな概念は法律条文にはあわないという判断があったのかもしれません。 しかし、とても大事なキーワードがなくなってしまった気がします。
世の中の人びとの気持ちの中に「そもそも人が仕事に就くことに介在して金儲けをするやつは徳性などいう言葉とは縁遠い」ということが、今でも流れているのかもしれません。私は、職業紹介事業というのは、妥当な収支の中で運営されれば有料でももちろん構わないと考えています。何が「妥当」で何が「ボロ儲け」なのかという論議はありましょうが、要は公共性の高いサービスでも、そのコストを税や社会保険料で賄うだけではなく、受益者が直接紹介手数料として紹介者に払うことがあり得てよいと考えています。
最終的には「社会的合理性」というところでの判断に落ち着くのでしょうが、モノを作る仕事でも売る仕事でも、サービスを提供する仕事でも、価格的な妥当性や社会的合理性があれば長続きしますが、法外な値段を設定して、ぼろ儲けをする産業というのは長続きしないということではないでしょうか。
大事なことは「徳性ある有料職業紹介事業が発展する」「徳性のない反社会的な人材ビジネスをどう淘汰するか」という社会的な仕組みをどう作るかにあると思うのです。もしその観点なしに「規制緩和」「事後規制」という言葉をかざしても、「経済構造の変化に伴う安定的な労働流動を、民間事業者の活力によって実現する」施策の実現はほど遠いと感じてしまうのです。
コンプライアンスの時代、人材を採用したい優良企業がわが業界を利用しなくなってしまっては、人材紹介業界の存在の社会的価値が持続するとは思えませんし、「人材紹介業は社会的に意義のある仕事だから」と、この業界に関わる方々が増えることは大歓迎ですが、「人材を紹介するって簡単に儲かるらしいから」ということだけ考える方が多くなってしまったら、おそらく人材紹介業は品格のない、社会から指弾されるビジネスに成り下がってしまうと思っています。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)
【岸 健二 (社)日本人材紹介事業協会(略称/人材協) 事務局長 筆者略歴:1949年東京生まれ。1973年中央大学法学部法律学科卒業。百貨店にて主に人事・法務畑を歩んだ後人材紹介業界へ。2002年より人材協事務局次長、2006年より同事務局長。】
