労働あ・ら・かると

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今月のテーマ(2007年12月 その2)

労働契約法を考える

 労働契約法案は、臨時国会において一部修正の上成立したが、これに関して、いくつかの問題点を提示させていただきたい。

 問題点の第1は、労働契約法で取り扱っている事項が極めて限定的であり、つまみ食い的な印象があることである。労働契約や就業規則の問題は、多岐多様に及んでおり、それをすべて立法化することは不可能であることについては異論はない。しかし、それにしてもあまりにも限られたテーマだけが規定されている。

 例えば、人事異動では、出向だけではなく、配置転換や転籍などがあるはずなのに、出向だけしか取り上げられない。しかも、「権利を濫用したと認められる場合には、無効とする」という民法の原則を規定したに過ぎない。

 このため、労働契約や就業規則の問題は、これまで、労働基準法の規定と裁判例に基づいて論じていたが、それが、労働基準法の規定、労働契約法の規定、裁判例と3段階になり、議論が複雑化してしまうのではないかと心配している。

 問題点の第2は、労働契約法の規定は茫漠としており、内容が不明確なことである。その規定の多くが裁判例、特に最高裁判例に基づいて規定されているが、判決においてはかなり丁寧に記述しているのに対し、労働契約法では、法律の規定の仕方の制約により極めて限られたことしか規定されていない。そうなると、結局裁判例に立ち帰って、その意味を理解するしかない。このため、法律には根拠はないが、指針を示して裁判例の内容を丁寧に書き下ろした方が国民にも分かり易く、親切なような気がしてならない。

 問題点の第3は、労働契約法に規定された安全配慮義務についてである。労働契約法5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、いわゆる安全配慮義務について規定している。

 安全配慮義務という考え方は、判例上定着しており、「労働者の生命、身体、健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務」をいう(陸上自衛隊損害賠償請求事件 最高裁第3小法廷 昭和50年2月25日)が、多くの裁判例でその具体的な内容については明らかにされており、これを丁寧に解説することが必要ではなかろうか。

 加えて、労働安全衛生法などとの関係においても、例えば、労働基準法13条は、同法「で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による」と定めているが、労働基準法から分離して制定された労働安全衛生法にはこのような趣旨の規定がないために、労働安全衛生法で定める基準にはこのような民事上の効力はないとして、同法に定める義務は単に公法上の義務に過ぎないとする考え方もある。しかしながら、労働安全衛生法の制定の経緯や「労働安全衛生法に定める安全衛生基準についても、安全配慮義務の基準になる(内外ゴム事件 神戸地裁平成2年12月27日)」などとする裁判例を考慮すれば、労働安全衛生法に労働基準法13条類似の規定を設けることが必要と思われる。そうすると、労働契約法に規定することだけでは不十分なのではないかという気がしている。

 問題点の第4は、出向の定義が国会における修正で削除されたことである。近年偽装出向が問題となる中では、やはり出向に関する定義規定はあった方がよいというのが筆者の意見である。もちろん、出向の定義があろうがなかろうが、その内容が変わることはないと思われるが、法律的には初めて出てきた概念でもあり、無用な混乱をさせないためにも残すべきではなかったかと考えている。

 国会修正では、労働契約の原則として、「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、または変更するものとする」ならびに「労働契約は、労働者及び使用者が、仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、または変更するものとする」(労働契約法3条4項、5項)という規定が追加された。労働条件などについての均衡のある処遇や仕事と生活の調和は重要ではあるが、果たして労働契約の原則として規定して、どれほどの意味があるのかという気もしている。

 労働契約法の各規定の効力はどのように考えればよいのかという問題もある。同法では、「ものとする」との規定などもかなり見られるが、そのようにしなかった場合の法的効力はどのようなものであるのかが明確ではなく、その前提として、何をしなければならないのかすら明確とは言えない。

 労働契約法は、労働基準法などとは異なり、労働基準監督官などが監督指導を行う性格のものではなく、行政はあくまで周知するだけということではあるが、本当にこれで民事上の問題が解決できる根拠となり得るのだろうかという気がしている。

 筆者は、労働契約法11条において、「就業規則の変更の手続については、労働基準法89条および90条の定めるところによる」と定めている点だけが目新しいことであると考えている。これまで、労働基準法89条および90条の要件を満たしていない就業規則については、その違反に対しては行政による取締や刑罰の適用はあるものの、労働者と使用者の法律関係には直接影響を及ぼさないと裁判例ではされてきたことを踏まえると、この規定により、労働基準法89条および90条の要件を満たしていない就業規則は無効となるものと考えており、この点だけは特に重点的に周知していただきたいと考えている。

【木村大樹 国際産業労働調査研究センター代表】